1日約30万人の新型コロナウイルス新規感染者という驚きの数字をたたき出すフランスの首都パリで、22~23年秋冬メンズファッションウィークが始まった。とはいえ、朝から抗原検査を受けようと、薬局の外に設けられた検査場に市民が列をなしていること以外には、特に変わった様子はない。年末年始でオミクロンにかかったという話もよく聞くが、街は結構普通に動いている。
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コレクション会場で引き続きマストなのはグリーンパスやコビッドパスと呼ばれる、ワクチン接種証明や陰性証明だ。しかし、週末からは新たなルールが適用されワクチン接種のみが有効になる。
そんな秋冬パリ・メンズのランウェーの先陣を切ったのはブルーマーブルだ。デザイナーのアンソニー・アルヴァレズはフィリピンとフランスにルーツを持つアメリカ人。そのヘリテージをたどるように、ベンタボートに乗りフィリピンからアメリカへの空想の旅へと繰り出した。ベンタボートのカラフルな帆はパーカへと落とし込まれ、バティックのようなフローラルがトップを覆う。セーラージャケットやパンツ、ドラム缶バッグと海の男の要素も。フェイクファーをあしらったコートやルーズなパンツ、スケーターシューズに、スカーフが一体化したチャンキーなビーニーと、全体的には90年代のシルエットがベースになっていた。カラフルなコレクションで、沈みがちな世の中にポジティブなエナジーをもたらしてくれた。
ランウェーデビューとなったエゴンラボは、21年のアンダム・ファッション・アワードでピエール・ベルジェ賞を受賞し、今年のウールマークプライズの最終選考にも残る期待のブランドだ。会場はルーブル近くの古い教会。ケープを身にまとい司祭に扮したいかつい男が登場、パワーショルダーのコートやシャツにタイのオフィスルック、オーバーサイズのスポーツジャケットを見せた。その後、宙に浮かんだようなボリュームドレスへと続き、誰の頭にも「バレンシアガ」という言葉がよぎった。スーツにプリーツスカートを重ねたシグネチャースタイルもあったが、デミクチュールをスタートする話も出ているのに、若干の戸惑いを感じてしまった。一方で、「クロックス」との協業をNFTで発表するなど、今の流行は的確に取り入れていた。次回に期待したい。
もう1人の注目株が初のプレゼンテーションを行った南アフリカ出身のルクハンヨ・ンディギだ。昨年のLVMHヤングファッションデザイナープライズでカール・ラガフェルド賞を受賞した3組の若手の1人だ。持ち味である手織りのテキスタイルを作る織機を持ち込んで実演した。風合いの違うヤーンを組み合わせたロングマフラーは人気アイテムだ。裾をフリンジで飾ったアシンメトリーなモヘアニットのようなハンドタッチアイテムの一方で、機械編みのニットドレスやテーラードスーツなどのコマーシャルアイテムも並ぶバランスの取れたコレクションだった。
(ライター・益井祐)
キディルは、都内でフィジカルショーを開き、パリの日程に合わせてデジタルで配信した。瀟洒(しょうしゃ)な邸宅の庭、午後の柔らかな日差しの中を幻想的な雰囲気のモデルたちが歩いてくる。リボンの装飾のコート、安全ピンとフリルをつないだトップ、バラの花や女の子をジャカードで描いたカーディガン、甘さと不気味さが混ざり合う末安弘明の世界は今シーズンも健在だ。ホラー映画の殺人鬼のような頭までを覆いつくすジャンプスーツスタイル、正体不明の生き物をアップリケしたトップ、トレンチコートにはチェーンソーや女の子がグラフィティ―のように描かれる。たくさんのタータンチェックのアイテムとともに、子供部屋のカーテンのような漫画柄のドレスも登場する。純真無垢(むく)な子供の心とそれが生み出す幻想の世界、現実と狂気をはらんだ世界を描く。前の2シーズンに比べるとキャッチーさには欠けるが、キディルらしさにあふれたコレクション。
(小笠原拓郎)