21年春夏パリ・デジタル・メンズコレクションに参加した67ブランドのうち、実に10ブランドが日本勢となった。特にメンズコレクションにおいては日本は一大勢力だが、やはり欧米のように完全なロックダウンがされなかったのは大きい。イメージ映像だけ流してサンプルは9月に公開するといったブランドがある中で、きっちりとサンプルを仕上げ、この後、リアルの展示会を開催していくブランドが多い。
(小笠原拓郎)
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パリ・デジタル・メンズコレクションの中で、最も見せ方にたけていたのはエルメスであろう。ファッションウィークに先立ち映像をすでに公開していたが、その後の公式サイトで他ブランドと比べても服の見え方やバックボーンがよく分かる。ライトブルーのスーツ、ストライプのシャツとブルゾンのレイヤード、ストライプにシャドーの柄を重ねたブルゾン。ブルーを軸にした軽やかな素材感の爽やかなスタイルだ。
ストライプのジャケットはシャーリングパンツにタックインして着る。足元はレザーサンダル。上質さとともにノンシャランなムードが漂う。ジップパーカのライナーやベルトにイエローを差してアクセントにする。
長すぎない映像とモデルの登場から退場までの細かなカット割が軽快で、見る者を飽きさせない。服の細部にフォーカスしてディテールを見せながら、引きの映像で雰囲気も伝える。デジタルでの見せ方としては、エルメスが最もストレスがなくコレクションを楽しめた。
一方、ストレスだらけの見せ方になったのはリック・オウエンスだ。モデルを着替えさせながら、そのシューティング状況をそのまま映像で流すという設定。おそらく映像を最後まで見た人はほとんどいないだろう。後ほど送られてきたルックブックを見ると、春夏も引き続き大きなショルダーラインが特徴であることが分かる。パンツはテーパードが利いたシルエットでプラットフォームの分厚いソールのシューズとのコーディネート。
カサブランカはトロピカル柄がベースのリゾートスタイル。パネルプリントのトロピカル柄のシャツにパイピングのジャケット、パールのボタンのサファリジャケットなどを見せた。スーツやジャケットの軽やかな素材がローシルクなのかリネンなのかが微妙に分からずもどかしい。そこがデジタルの限界でもある。
日本から10ブランド
10ブランドが参加した日本勢の中には、オリジナルのストーリーで映像を作ったダブレットや単純にショーをイメージした映像を流したヨシオクボ、ホワイトマウンテニアリングなど表現の中身は様々だった。
ダブレットは、熊の着ぐるみがギフトを配る物語。マクドナルドのフライドポテトを連想させるソックスなど井野将之らしいユーモアは感じられたが、春夏の新作という点でのパンチは今一つ。ヨシオクボは、前シーズンに続いてジャポニスムを背景にしたコレクション。能楽堂の舞台で見せたのは忍者を思わせるモノクロベースのシンプルスタイル。きもの合わせのアシンメトリートップなどが充実した。
ショーを思わせる映像を流す場合、カット割などを計算して作らないと飽きることも分かった。今後のデジタル配信の場合、そのあたりの工夫も必要であろう。ファセッタズムは、新作を着たモデル数人によるイメージ映像を見せた。ショー形式ではなく完全にイメージフィルムを見せる手法を取り、シーンを細かく変えることで飽きさせない演出となった。ただ服の新作という点での訴求力は弱めで、そこは展示会やルックブックでフォローということなのかもしれない。
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イザベル・マランは、ユーティリティーを背景にしたカジュアルスタイル。ナチュラルで飾らないムードのパーカやニットを揃えた。
《バイヤーコメント》インターナショナルギャラリービームス 服部隆さん
オンラインの消化率も参考に 読み取りにくい服の特徴
ロンドン・ファッションウィークと比較すると、サイトの構成はかなり見やすくなっていると感じました。各ブランドがイメージビジュアルに趣向を凝らしているのが感じられ、新しい展開だと思いました。しかしながら、バイイングが主な目的のバイヤーはイメージより服から傾向や特徴を知ることが重要なので、その部分は読み取りにくく感じました。
サイトは、コンテンツのセグメントがあいまいな印象だったり、複数のカテゴリーからインタビューやプレゼンテーションのサイトに移動できたりと同じ情報が幾つかのカテゴリーから見られるようになっているのは情報量を豊富に見せたいからでしょうか。もう少し効率化したほうが良いのではと思いました。
また、ロンドンはジョア、パリはル・ニュー・ブラックKとオーダーのプラットフォームが別になっているのも気になりました。ジョアの方が使用頻度が高いので、ジョアに一本化出来れば良いのですが。
やはりオンラインでのオーダーでは、着心地の良しあし、素材の雰囲気、アイテムのウエイトなどは正確に把握出来ず、ピックアップ自体に限界がありますので、特に直輸入の新規ブランドのオーダーは消極的にならざるを得ません。また、このような情勢でオンラインでの売り上げが伸びており、今後もこの傾向は続くと考えますので、オンラインでの消化率が高いブランドは積極的にバイイングしていき、逆にオンライン展開に消極的なブランドは慎重なオーダーになると思います。
加えて、インバウンド(訪日外国人)需要の回復もすぐには見込めないと想定しており、極端にインバウンドの実売が高いブランドも仕入れに慎重な判断が必要だと考えます。