21年春夏パリ・メンズコレクション デジタル形式で67ブランド

2020/07/16 06:27 更新


 21年春夏パリ・メンズコレクションがデジタル形式で発表された。参加したのは67ブランドとここ数年のパリ・メンズでは最大規模となった。これまでショー形式で発表してこなかったブランドやプレゼンテーションで参加していたブランドがデジタルファッションウィークに名を連ねた。

(小笠原拓郎)

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 67ブランドという規模でファッションウィークができた背景にはデジタルの敷居の低さがあるのであろう。実際にフィジカルなショーをするとなるとメンズの場合、1000万円規模の支出となる。ウィメンズのパリ・コレクションよりは経費が掛からないとはいえ、ショーはコスト高。デジタルではどこまで経費をかけるかはブランドによって異なるが、モデルの経費などを大幅に削減できる。

 もちろん、春夏の新作を全面的に見せたブランドは限られる。イメージフィルムやシューティングの現場を映像で流したブランド、プレゼンテーション形式できっちりとコレクションを説明したブランド、ミュージシャンと組んだ音楽イベントなど、様々なコンテンツが登場した。

 このデジタルでのコレクション発表をいかに充実させるのかという工夫もなされている。その筆頭がロエベ。コレクションの発表前に、大きなボックスセットが送られてきた。その中には、ショーのインスピレーションや型紙、生地スワッチ、パターン、アクセサリーの写真などがぎっしりと詰め込まれている。サウンドトラックのレコード盤やクリエイションチームの人たちをかたどった人物シルエットの紙の束など、ユーモアいっぱいの資料もある。

ロエベから届いたボックスセット
ロエベ
ロエベ
ロエベ

 ジョナサン・アンダーソンによるコレクション・プレゼンテーションを頂点にしながら、24時間にわたって1時間刻みのイベントを開催した。そのイベントの中には、今回のコレクションで活用した日本の絞り技術の動画配信なども含まれ、物作りの背景をより深く伝えようとした。

 コレクションのキーワードはボリューム。彫刻のようなシルエットのアイテムが充実した。3Dのように立体的なフォルムのニットやバスケットのようにレザーを編み込んで作る造形フォルムのトップなどを揃えた。絞りのテクニックやタペストリーのような柄も用いられている。コートもバックに大きなドレープを流しながら量感を描いている。

 ジェイ・ダブリュー・アンダーソンは、ファッションウィーク開催前にすでにデジタルでのプレゼンテーションを終え、このファッションウィークではごく短いイメージ映像のみを見せた。春夏はジョナサンらしい縦長のシルエットのアイテムが揃う。パッチワークのコートなどテントラインのフォルムが軸になる。

ジェイ・ダブリュー・アンダーソン

 Yプロジェクトもファッションウィークよりも先に映像を公開していた。こちらは同じ映像を公式カレンダーで再び見せた。フィッターたちがモデルの着せ替えを手伝うもの。一つのアイテムで違う着方もできるというのを映像を使って公開した。着方次第で違うアイテムやシルエットになるというのはいかにもYプロジェクトらしいコレクション。

Yプロジェクト

 モデルにきっちりと服を着させて見せたブランドもある。このファッションウィークの冒頭を飾ったエチュードやコモンスウェーデンといったブランドだ。エチュードはパリの街並みを使って、モデルたちが街角から次々と現れては消えていくという形式で新作を披露した。シャツのレイヤードスタイルとフォトプリント、タイダイといったテクニックがベースとなった。ちょっとだけアフリカンバティックの雰囲気もある。

エチュード

 コモンスウェーデンはスタジオに麦畑を作り、その間をモデルが歩く設定。ストローハット、オーバーサイズのシャツとスーツのレイヤードスタイルがキーとなる。メッシュのタンクトップやフリンジディテールなどラスティック(粗野)なムードを携えた。

コモンスウェーデン

《バイヤーコメント》バーニーズジャパン・中箸充男さん

気持ちの切り替えが難しいデジタル 仕入れは中軽衣料が軸

中箸充男MD部アシスタントディレクター

 日常の業務を実践しながら、時差のあるパリのデジタルショーにオンタイムで全て臨むのは難しい。通常のランウェーショーでは非日常空間の中で神経を研ぎ澄まし、ブランドの表現を感じながら洋服と向き合ってきた。デジタルショーでは日常の延長線上で、気持ちの切り替えが難しい。

 デジタルショーの動画再生時間は1分以内から10分を超えたりと各ブランド様々。時間の長短にかかわらず、抽象的で洋服以外の要素にフォーカスし過ぎたり、ルック体数も少ないショーは意図が把握しずらい。また再生回数を増やすには適度に再生時間は短い方が良いと思うが、洋服を魅せることに注力することと飽きさせないストーリーを構成することも重要。

 デザイナー自らが、自分の言葉で考え方や意図を伝え、製作過程も見せたり、自身が演じたりするブランドは身近に感じられて、表現としても分かりやすい。またデジタルショーでも洋服にスポットを当て、新しい素材、デザイン、パターンにチャレンジして、それらをいかによく見せるかを創意工夫しているブランドは魅力的に感じられた。

 春夏の商売の中で、中軽衣料に比べ重衣料は高単価で、着用期間も短い。特に重衣料は素材感やウエイトを把握することが買い付けの判断材料として重要だが、デリバリーも不安定な中、直接見たり触れたりすることなく買い付けすることはリスクが高い。デリバリーに大きな影響もしずらく、着用期間が長い中軽衣料アイテムを軸にお客様のニーズに応えてMDを組み立てていく。

 また、優れたクリエイティビティーのデザイナーや協力いただいている取引先と何か特別なことを期中で企画し、話題と売り上げを作れるように取り組みたい。

(MD部アシスタントディレクター)



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