デザイナーブランドのファッションサイクルは変わるのか

2020/07/13 06:30 更新


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 BFC(英国ファッション協会)とCFDA(アメリカファッションデザイナー評議会)が共同で、ファッション業界のリセットに向けたメッセージを発表した。年2回のコレクション以上にシーズンを増やさないことを含むガイドラインを示す内容だ。この共同声明の背景には何があるのか。その意図をロンドン、ニューヨーク(NY)の通信員とともに探った。

(小笠原拓郎編集委員)

 小笠原 BFCとCFDAが共同で今後のファッションウィークの在り方について声明を出した。これはいったい、どういう意図なのでしょうか。年2回のコレクションにデザイナーは集中すべきで、プレコレクションのファッションショーを否定しています。

 すでに「サンローラン」が当面のファッションウィークへの参加を見送ることを明らかにしています。「グッチ」も続いた。両協会としてはこれ以上、オンスケジュールからブランドが脱落しないための予防線を張っているのでしょうか。そして、この声明は現在のファッションビジネスの実態に対しては果たして機能するのでしょうか。

 今やラグジュアリーブランドは、年2回のコレクションで売る商品よりも、プレコレクション2回で売る商品のほうが圧倒的に比率としては高い。ラグジュアリーブランド以外でも、プレタポルテにおいてプレコレクションをせずにビジネスを回すということは不可能になってしまっています。その背景には米国の商習慣があります。米国の商習慣が世界のプレタポルテのビジネスの標準となったためにプレコレクションが発達したわけです。

 こうした状況で、この声明を出す意味は何だろう。もちろん、ビジネスがいきなり前の標準に戻るわけではないし、徐々にしか回復していかない。年4回やろうにも実体経済がそれを望んでいなければ、できないのは当たり前です。すべては米国の小売業の回復状況が大前提にもなるのかもしれないですが、どう考えますか。

ファッションサイクルの転換を訴えるドリス・ヴァン・ノッテン(20~21年秋冬コレクションから、大原広和写す)

きれいな地球の維持を

 杉本佳子ニューヨーク通信員 プレの方が大きなビジネスになっていることは確かですが、プレスプリングと春夏、プレフォールと秋冬をそれぞれ1シーズンにまとめて、その中で納期を月ごとに分けていけば良いということと私は理解しています。あとは必要に応じて、生産量を限定した協業やカプセルコレクションを差し込んで話題性や鮮度を高めていくという手法が取られるのではないかと思います。

 「環境、自然との共生の見直し」は大きなテーマの一つです。新型コロナで車や飛行機での往来が減り、地球がきれいになったと言われています。今までは早く手に入れることが大事でしたが、地球の「きれい」を維持できるなら、少し待っても良い、届けてくれる人がいるだけでありがたいという機運になってきているのではないでしょうか。この期に及んでスピード重視は、時代とずれているということになっていくと思います。地球と痛みを分かち合うような感じかと。

 米国の商習慣は、多くの小売業の倒産で変わってくるでしょう。屋内型のショッピングモールや窓を開けないデパートは、当分かなり警戒される業態になるでしょう。つまり、卸売りという形態は今まで以上に難しくなっていくと思います。ブランドは卸売りへの依存を減らし、消費者に直接売る割合が増えてくるでしょう。

 それに伴い、「シーナウ・バイナウ」が復活する、あるいはあえてそんな風に言わなくても、客が必要とする時に合わせて作って直接売るブランドが増えていくのではないでしょうか。中国や東南アジアでの生産への依存を減らし、近場での生産にある程度シフトしていく傾向もあるように思われます。

 プレをやめるのも、何かあった時に生産調整・在庫調整がしやすいということもあるのではないでしょうか。同じ理由で、シーズンレスの商品も増えていくのではないでしょうか。ファッション消費をけん引してきた中国人観光客も、しばらく国外旅行を控えると言われています。

アーデムも公開書簡に賛同したデザイナーの1人(20~21年秋冬コレクションから)

よりクリエイティブに

 若月美奈ロンドン通信員 プレをなくすというのは、シーズンとしてなくしてしまうのではなく、忙しすぎる業界の無駄な移動やストレスを減らし、ショーは年2回に集中することにより、デザイナーはクリエイティブな活動を持続させようということではないでしょうか。声明では、ビジネス的にはプレが大切であることは承知しているが、ショーではなく展示会で対応するべきと言っています。

 やはり今回のパンデミック(世界的大流行)で、以前から疑問視され始めていた、パリやミラノのビッグメゾンが世界各地で開催しているVIPプレスを招いた大掛かりなプレコレクションのショーの必要性を考え直す機会にもなったかと思います。今回、NYとロンドンの共同声明というのは最初意外でしたが、大手ラグジュアリーブランドが中心となっているパリやミラノとは状況が違い、NYとロンドンは近いのですよね。

 声明には、バイヤーやジャーナリストの移動を考える上でも、ファッションウィーク内で発表をしましょうという文章もあり、脱落への予防線という一面もあるかと思います。しかしそれ以上に、協会はデザイナーたちの考えていることを代弁し、今後も一丸となってクリエイティビティーを絶やさないように改革を進めましょうということかと思います。

 もともと、販売や生産の時期を考慮して、皆が一緒に合理的に新作を発表するためにプレタポルテのファッションウィークが誕生しました。私が初めてパリ・コレクション取材へ行った30年前は3月と10月、ともに中旬から下旬にかけての開催でした。それが発表も販売時期もどんどん早まり、実際の着用シーズンとかみ合わなくなってきた。スローダウン。改革というより原点回帰ですね。

ガブリエラ・ハーストは20~21年秋冬コレクションでサステイナブルを強く意識した。ドリス・ヴァン・ノッテンらが呼び掛けた公開書簡に賛同している

プロパーの販売を長く

 小笠原 ドリス・ヴァン・ノッテンらが進めている共同書簡も同じように、スローダウンやファッションサイクルの見直しを主張しています。秋冬シーズンを冬シーズンとして、8月から1月まで販売する。春夏は夏シーズンとして、2月から7月まで。実売を7月、1月まで引っ張り、セールは7月と1月にするというファッションサイクルです。

 プレコレクションをどうするのかは不明ですが、プレコレクションを投入することによって3カ月ごとに売り場を変化させ、3カ月ごとにマークダウンをしていくというこれまでの手法を変えようという発想です。もともとプレコレクションによって3カ月周期で売り場を変えていくというやり方は米国の商習慣から始まったわけですが、そもそも、米国のプレタポルテのマークアップ(価格設定)は他国よりも高いですよね。プロパー消化率が低くても、マークダウンしても利益が出やすい。だから3カ月周期でセールにも積極的です。でも、公開書簡ではセールは年2回。プロパーでの販売時期を長くして、簡素化したシステムで健全化を図るという考え方です。

 公開書簡の「商品に対して購買欲求を持っていただくまでの時間を提供するために、シーズンを通してよりバランスの取れたデリバリーフローを作る」という表現も気になります。これがコレクションの発表の時期と生産、納品を巡ってどういうシステムになっていくのか、興味深い。ものすごい数の業界の著名人が賛同しています。中でもバーグドルフ・グッドマンやセルフリッジといった著名小売店が署名しているので、デザイナービジネスのサイクルが変化していく可能性はあります。

ドリス・ヴァン・ノッテンらが呼びかけた公開書簡

 先日、私たちを含むCEO(最高経営責任者)からバイヤーおよびクリエイティブ・ディレクターまで、世界中のファッション業界から成るグループは、私たちのビジネスがどのように変わっていくべきかを議論するために、ビジョンを共有しながら集合し、会話を重ねて参りました。

 私たちは、現在の情勢が困難ではありますが、基本に立ち返り、変化を歓迎することが、私たちのビジネスを簡素化し、より環境的および社会的に持続可能なものにし、最終的に顧客様のニーズにより近づけるということに同意しました。

 私たちは、2020年秋冬シーズンから、ウィメンズウェアとメンズウェア商品の両方の季節性およびフローを調整することで、これを実現したいと考えています。

〇秋冬シーズンを冬(8~1月)に、春夏シーズンを夏(2~7月)に戻す

・新しさを提供するだけでなく、商品に対して購買欲求を持っていただくまでの時間を提供するために、シーズンを通してよりバランスの取れたデリバリーフローを作る

〇正規価格での販売期間を増やすため、シーズン終わりにディスカウントする(秋冬は1月、春夏は7月)

 また、以下を通じて、サプライチェーンおよびセールスカレンダー全体にわたってサステイナビリティー(持続可能性)の向上に努めます。

〇不要な商品をより少なくする

〇生地および在庫の廃棄をより少なくする

〇出張をより少なくする

・個人のクリエイティブな相互関係に加えて、デジタルショールームを活用する

〇ファッションショーを見直し、適応する

 協力することで、私たちはこれらのステップによって私たちの業界がお客様、地球、ファッションコミュニティーへの影響に対してより責任を持つようになり、ファッションを私たちの世界にとって重要な物の一部にしてくれた魔法と創造性を取り戻すことを願っております。

(繊研新聞本紙20年6月4日付)


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