【パリ=小笠原拓郎】20~21年秋冬パリ・コレクションはパリらしい創造性にあふれたコレクションが相次いでいる。初日は若手デザイナー中心にストリートを背景にしたスタイルを揃えた。テーラーリングを巡っては今の時代におけるテーラードスーツの在り方の模索が続いている。
(写真=大原広和)
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ヴァレンティノはメンズテーラーリングに鮮やかな花柄を取り入れた。ロマンティシズムをキーワードにしたコレクションは、鮮やかな花と端正なテーラードが重なり合うもの。プリント、ジャカード、アップリケ、様々なテクニックで大きくて写実的な花を描く。長い間、男性にとってユニフォームとされていたテーラードスーツを、構造や細部への注意、個人への親密感を生かしてモダンに表現しようとしている。
確かに大きな花を描いたテーラードスタイルはユニフォームとは一線を画すもの。しかし、この大きな花柄とテーラードの組み合わせから、なぜか90年代後半の「ヨウジヤマモト」のコレクションを思い出す。もちろん、花の描き方もパターンも全く違うものではあるが、四半世紀前の思い出が浮かぶのはなぜだろう。今の時代のモダンな男性像、新しいテーラーリングに到達するには、やはり花のロマンティシズムだけでは何か足りないのかもしれない。
霧に包まれた白い丘に黒装束の男がたどり着く。するとその丘は大きく揺れ動く魔物となって男を襲う。アンダーカバーは、日本の神話を思わせるストーリー仕立てのショーで見せた。
男はムカデの刺繍がされた忍者のような黒の上下、魔物は白い服の3人の女性が演じる。和のモチーフを背景にしたコレクションには、家紋のディテールやキモノコート、陣羽織のようなアイテムの重ね着が見られる。武将のモチーフを描いたトップに下駄のようなサンダルもある。
しかし、通常のジャポニズムとは少し異なる視点が入っている。それは和の要素を取り入れながらも洋とシンクロして見えること。日本人の視点でみると、ジャポニズムを取り入れたコレクションは往々にしてどこかさめた感覚にもなりかねない。しかし、日本のカルチャーが好きな海外の人にとってはど真ん中に刺さるコレクションと言える。
実際の和服を着る敷居の高さに比べると、和を取り入れながらもストリートのレイヤードスタイルに収めているためアクセスもしやすい。和を取り入れながら実は全く市場にない商品なのかもしれない。「7月のコレクション立ち上がりと五輪での観光客の増加が重なることを考えると、インバウンド(訪日外国人)需要にばっちりはまるコレクション」。そんなバイヤーの指摘もうなずける。
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