【ミラノ=小笠原拓郎、青木規子】19~20年秋冬ミラノ・コレクションは、初日から実力派デザイナーのショーが相次いだ。この間、参加ブランド数も減少して元気を失っていたミラノだが、有力ブランドの復帰でどこまで盛り上がりを見せるか注目されている。
(写真=大原広和、フィナーレ写真はブランド提供)
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グッチから送られたきたのは大きな木箱。それを開けると白い仮面が入っている。その仮面のインビテーションは、まるで現実と幻想の間の通行許可証のように思えてくる。「仮装してきなさい。ここは幻想の世界です」。アレッサンドロ・ミケーレはそうコレクション参加者に呼びかけているかのようだ。
シルバーに輝く床、壁に埋め込まれたLEDが明滅してまぶしい光を放ち、荘厳な音楽とともにコレクションが始まる。眼帯、マスク、涙が頬をつたうメイク。モデルたちはマスクで顔を隠し、時に何かにとりつかれたかのように無表情で歩いてくる。とがったシルバースタッズを飾ったジャカードコート、レザーのカラーブロックドレス。ツイードタッチのクラシックなスーツはモデルの長い髪をジャケットの下に隠すようにしている。
パンツスーツは、ハーレムパンツのような裾を絞ったシルエット。ミケーレ得意の装飾スタイルはこれまでと格段違っているようには見えないのだが、ちょっとしたコーディネートの変化でなぜか異質なムードを作り出す。そして分量的には、これまでよりも若干、軽くなっているようにも思われる。だが、そうも言い切れないのはショー全体の発する熱量のせい。
それは、プレタポルテの服の発表というよりも、むしろミケーレによる幻想的な叙情詩のようなもの。新作の服の傾向や次の時代のファッションを見るこれまでのプレタポルテではなく、ミケーレによる物語を見に来たかのような気分に包まれる。服を通して新しい時代の風を感じるというよりも、不思議な世界に迷い込んだような錯覚。テーマは「仮面--可視と不可視の間の存在」。