東京・国分寺に本店を構えるオーダースーツ専門店の吉田スーツ。「あなたのスタイリスト」をテーマに、ベーシックなビジネススーツから1930年代風のレトロなスーツといった変わり種まで、幅広いスタイルを提案する。町のテーラーが祖業ながら下北沢、国立、新橋という異なる顧客特性の立地に店を持つ多店舗運営も特徴だ。吉田務代表に立ち上げの経緯とオーダースーツ市場の変化を聞いた。
(高塩夏彦)
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ゼロから学ぶ
吉田代表は全くの異業種の出身だ。実家がオーダースーツ専門店を営んでいた妻との結婚を機に、ゼロからテーラーを志した。妻の実家で6年ほど学び、03年に国分寺で自身の店を開業した。当時の店は今の本店よりも小規模だった。
「ゼロからのスタートだからこそ、学ぶ姿勢を持っていた」と吉田代表。雑誌の編集者などの知り合いからアドバイスを受けたり、ビンテージのスーツを買って研究したり、開業後も愚直に学び続けたという。
客の声も積極的に取り入れた。求められたスーツの形を作るために、一から工場を探すなど奔走し、要望に応え続けた。オーダースーツ初心者にも楽しんでほしいとの思いから、価格も相場より低めに設定した。努力が実り、しばらくすると行列ができるほどの人気店になって、現在の本店の場所へ拡大移転した。
出店拡大にも乗り出した。11年に閉店する老舗メンズショップ「ニュー」を引き継ぐ形で、東京・新橋に「ニュー&吉田スーツ」をオープンし、ビネスマンの取り込みを狙った。さらに同年、若年層も多い下北沢にも店を出し、21年には国立にも出店した。
客単価が上昇
コロナ禍に入ると、売り上げが7割ほどまで落ち込んだ。機能素材を使ったスーツなどの商品開発や、顧客の支えでなんとか乗り越えた。コロナ禍後は消費者のスーツに対する考え方に変化を感じているという。「リモートワークの拡大などでスーツを着る機会が減ったことで、仕事のための服だけでなく、自身の個性やこだわりを反映する服と見る人が増えた」とみる。
数字にもそれが表れている。以前の平均単価は6万円ほどだったが、より上質な生地や仕立てを求める注文が増え、8万~9万円ほどに上がった。ディテールなどへの細かい要望も増えており、ファッションとしてスーツを楽しみたいという意識が高まっている。
客単価が上昇したことで現在の売り上げは19年とほぼ同じ水準に回復した。
今後はスタッフ発信のスタイリング提案などをさらに強化し、スーツを着こなす楽しさをより深く顧客へ伝えていきたい考えだ。