外食市場では焼肉一強が顕著だ。牛肉の圧倒的な素材力、客層を問わぬ集客力、自ら焼き上げる臨場感。いずれも焼肉特有の魅力であり、何より「和牛」(黒毛和種)という決め手がある。サシ(脂肪交雑)が見事な「和牛A5」と聞けば、だれもが美味と高価に納得させられてしまう。ところが、この和牛A5の強みが揺らぎ始めている。
上等=うまいではない
そもそもA5とは、日本食肉格付協会による「歩留まり等級」と「肉質等級」を組み合わせたランク表示。歩留まり等級は「A・B・C」に分かれ、肉質等級はマーブリング(サシ)とミートカラー(肉色)の状態から「5段階」に分類される。つまりA5に近いほど上等な牛肉とされるが、あくまで歩留まりと肉質の評価であり、「うまい」や「まずい」を表しているわけではない。かねてブランド和牛のA5がたたえられ、その希少価値が叫ばれてきたことから「A5が一番うまい」というA5信仰が定着したのである。
ところが昨今は「A5は脂っこい」との指摘が増えており、希少価値のイメージも色あせ始めている。それもそのはず、近年、畜産の肥育技術が急速に発展し、サシの含有量は飛躍的に増加。和牛出荷の5割以上がサシ50%以上の5等級に格付けされ、上物とされる4等級を含めると、A5レベルの出荷は8割以上に達する。相場や時期によっては在庫がダブついてる状況なのだ。
一方、和牛と乳用種牛を掛け合わせた「交雑種」という国産牛もあり、こちらの味覚を支持する声も多い。もちろん和牛とは記せないが、「タレのおいしさを尊重する焼肉には交雑種A4が最適」(業界筋)という認識もあり、有名高級店でも積極的に活用している。
おいしさは世界共通
そんな中、和牛も新時代に向けた品種改良に乗り出している。そのキーワードは「オレイン酸」だ。20年、畜産の研究機関・家畜改良センターは、外国人に対し和牛の味覚調査を実施。その結果、和牛のおいしさは「脂肪の口溶け」と「和牛香(甘く脂っぽい香り)」にあり、その優劣は「オレイン酸の含有量と質による」と発表。同時に農林水産省の畜産指針でも「オレイン酸の向上を推進」と示された。
牛肉のおいしさは世界共通の認識であり、和牛は輸出振興やインバウンド(訪日外国人)で日本食ブランドをリードする象徴。また「オリーブ牛」(香川)、「オレイン55」(鳥取)、「信州和牛」(長野)など、オレイン酸を強化した飼料で肥育する和牛ブランドも注目されている。
近い将来、「オレイン酸ブランド和牛」を掲げる焼肉店が増えるのは確実だろう。
(日本食糧新聞社 岡安秀一)