東レと多摩美術大学のワークショップが面白かった。題材は人工皮革「ウルトラスエード」。素材の可能性を探るべく、学生有志らが実験のように様々な加工を試しながら作品を制作し、その成果とプロセスを発表した。
ゆっくりアートを鑑賞するのは久しぶり。既成概念にとらわれない学生の自由な発想に、心が洗われた気がした。不要になった生地見本を使うとはいえ、1メートル当たり数千円する高級素材を焼いて焦がしてみたり、サンダルの底にしたり。
なかでも、熱を利用した作品には驚かされた。熱による風合いの変化は、ウルトラスエードの欠点とされてきたからだ。その欠点を逆手にとり、ホットシーラーで生地同士を熱圧着したり、色や質感の変化で柄を表したりして、新たなデザインに変えた。手間やコスト、物性を考えると、商業デザインにおいては現実的でないかもしれないが、素材の異なる魅力を引き出した。
「学生の自由な発想は価値だ。企業の利益にはならないが、忘れていた刺激がデザイナーのエネルギーになる」。ワークショップを企画した教授の話が印象的だった。着心地や扱いやすさ、機能性と細部まで配慮されたデザインは、日本の強みだ。でも、たまには何にも縛られず、思いのままに美しさを追求してみると、違ったものが見えてくるかもしれない。
(侑)