《視点》手形の恐怖

2021/03/25 06:23 更新


 政府は26年をめどに、約束手形を廃止する方針を決めた。売り掛けの証書とも言える手形は、受け取った際には現金化まで待たされ(もしくは割り引かれ)、支払いに使えば決済日までに資金を用立てする必要がある。手形のおかげで資金繰りに苦労させられた中小企業経営者も多いのではないだろうか。

 街金(消費者金融)を舞台にした漫画『ナニワ金融道』には、たびたび約束手形が登場する。手形の裏面の欄に氏名や住所を記入することを「裏書」と言うが、知らずに裏書きさせられた人が不渡りになった大金の手形を弁済させられる場面が出てくる。裏書には法的拘束力があり、知らなかったでは逃げられない恐ろしいものだ。

 社会人になる前には誰もそのようなことは教えてくれなかったが、連帯保証人にならないことと並んで「手形の裏書きは絶対するな」と心に刻んだのを今も忘れていない。幸い、サラリーマンの記者は手形自体を見ることなく今日まで生きてこられたが。約束手形の廃止は取引を適正化し、ペーパーレスを推進する狙いという。お金にまつわる恐怖も消えてくれるといいが、そうはいかない。

(恵)



この記事に関連する記事