先日、とある国内の靴メーカーを取材したときのこと。工場内には、仕上げたばかりのセレクトショップのOEM(相手先ブランドによる生産)の製品を入れた箱が積み重なっている。聞くと、「海外で作るほど数はいらないし、実需に即した形で物作りしたいと年8回のオーダーがある」という。海外で生産するとなると、2年近く前から進めないと間に合わない、そこに無理があると判断して国産に回帰したようだ。
一方で、コロナ禍では、SPA(製造小売業)ブランド向けに作っていた台湾系の大手靴メーカーが、中長期的に続けるのは無理だと判断して工場を閉じた話も聞いた。靴に関しては今後、供給する側にとっては機械生産でコストが抑えられ、楽な履き心地のスニーカーの消費がさらに伸びていくと考えられるし、人の手を使った生産は中高級品の市場に限られるだろう。
数年、浅草の靴メーカーの淘汰(とうた)は激しかったが、「売れる見込み」で資材に至るまで大量生産していたビジネスモデルから抜け切れなかったからだ。物作りの付加価値を大事にして売れる分だけ作る関係を築ければ、国産は最も持続可能だし、携わりたい若い世代が増えていくはずだ。
(渉)