商社の〝出口〟戦略が大きく変わろうとしている。「世界経済をリードする米国や中国のIT大手企業と接点を作れていない。今の成功をゼロと考え、新たなビジネスモデルを生み出す」。過去最高益を狙う伊藤忠商事の岡藤正広社長が、1月の記者会見で口にしたのは強烈な危機感だった。
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欧州で100億円投資
国内外で台頭する有力企業や販売チャネルが変わりつつあり、既存の顧客や販路だけで成長できるとは誰も考えていない。EC企業などの新販路に加え、海外の市場や顧客の開拓に力が入る。「ラグジュアリービジネスは莫大な投資が必要。この数年、欧州で約100億円を投資した」と話すのは八木通商の八木雄三社長だ。
小売店や卸のためのオフィスを開き、有能なマーケティング人材を採用、欧米やアジア市場に打って出る。瀧定名古屋は1月、アムステルダム事務所を現地法人化して欧州での服地販売を強め、田村駒はスポーツ関連の製品事業につなげようとミュンヘンに駐在員事務所を開いた。ヤギは、「強みを明確に打ち出す」ため、独自のリサイクル綿「リサイカラー」をインターテキスタイル上海で前面に出した。
スタイレムは日本を含む世界の産地特性を生かした生地を作り、欧米や中国など世界で販売を強める。生産、販売両面でシナジーを目指すのは丸紅だ。欧州アパレル企業への販売を急拡大するトルコのサイデテキスタイルに出資、「トルコでのオペレーションをアジアで展開することを考えている」。
気がつけばそこに
「ECやグローバル企業はファイナンス面がしっかりしたメーカーをアジアで探している。まさに商社の出番」。武器は、アジアでの生産基盤だ。中国の環境規制で「物作りが難しくなっている」ため、サプライチェーンの再強化も目立つ。各社が特に強めるのはベトナムだ。
豊通ファッションエクスプレスとアタゴ、台湾の得力はベトナムでスポーツウェアの縫製工場を新設。12月の稼働を目指し、ゆくゆくは欧米向けも視野に入れる。伊藤忠商事はビナテックスやサンライズグループ、蝶理は台湾系素材メーカーとの協業を強め、ベトナムでの素材から縫製までの一貫体制を充実する。田村駒やヤギは自社専用縫製ラインを増設。クラレトレーディングは縫製、プリント設備を増強し、ベトナム縫製が全体の65%まで高まってきた。
第4次産業革命とも言われる大転換期。商社は今後、どのようにビジネスするのか。「かなり先の未来を予見する必要はなく、顧客の1歩、半歩先の足元を照らす。しかし気が付けばいつもそばにいる。そんな存在になれば良い」(小関秀一伊藤忠商事専務執行役員繊維カンパニープレジデント)。
(稲田拓志、髙田淳史、近藤康弘)=おわり