商社にとって古くて新しいビジネスモデルが事業投資、M&A(企業の合併・買収)だ。商社の事業投資は明治時代からで、最近は投資先の経営に深く関わって企業価値を向上させる「事業経営」の意味合いが強まった。成長に向けて事業投資やM&Aを軽視する経営者はいないが、繊維・ファッション業界での投資の対象は変化している。
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物作りに近づく
「アパレル企業を投資の対象とは考えない」。こんな見方が商社トップに広まっている。かつて大手アパレルが不振を極めた時期、スポンサー候補に商社の名前が挙がることは珍しくなかったが、今は聞かれない。三井物産がビギホールディングスを持分法適用会社化する話題が先月、業界をにぎわせたのも、後継者問題を背景とした事業承継で、やや意味合いが異なる。
アパレル企業への投資に関心が薄まったのは、従来型のビジネスの延長線上にあるとの判断からかもしれない。テキスタイルや製品OEM(相手先ブランドによる生産)の出口になるという一定の目的はあるが、ビジネスモデルの変革にはつながらない。そんな冷静な見方があるようだ。むしろ、より物作りに近い企業への投資が目立つ。
豊島が自社のCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)を通じ、日本環境設計の第三者割当増資を引き受け、再生ポリエステル事業に参画する業務提携契約を結び、「事業ポートフォリオのバランスが大事」というヤギが、ブランド・小売りのほか、撚糸の山弥織物や布帛のイチメンなど物作り企業を傘下に入れたのも象徴的だ。モリリンも「物作りに関する企業を買収しようと思っている」という。出口というより、物作りの機能を拡充し、製品OEMに磨きをかける発想が垣間見える。
成功例は少ないが
とはいえ、商社が過去に投資したアパレル、小売りは数多く、投資先の企業価値の向上は不可欠だ。アパレル、小売りと商社ではノウハウが異なり、「なかなか成功例がない」と言われ続けているが、商社の原料、製品OEMに比べて利益率が高く、やり方次第では自らの成長を後押ししてくれる。
その意味で、アパレル、小売りをうまく経営できる人材育成の重要性が増している。「単体は将来、経営者を育成する道場みたいなものになるかもしれない」と語るのは伊藤忠商事の小関秀一専務執行役員繊維カンパニープレジデント。「川下分野の経営は難しいが、進めないと駄目。理解してやるしかない」と付け加える。
人材育成とともに、強みとする総合力を注入する手法も有効だろう。総合商社を中心に、全社を挙げてIT関連のスタートアップ企業へ積極的に投資している。新たに得たテクノロジーを事業会社に活用、成長を目指すスタイルが加速しそうだ。