女 「アンダーバスト」
男 「80cm」
女 「トップバスト」
男 「83cm」
女 「ウェスト」
男 「… 」
ヒップ、腕、肘、手首、頭、首、背中、膝… 男はメジャーで女のあらゆるサイズを計る。
ボーザールの舞台。ティルダのカラダが数字になっていく
ここは、ボーザール・ドゥ・パリのアンフィテアトル(円形の階段講堂)の舞台。
女は英国人女優ティルダ・スウィントン。男はパリ市立モード美術館ガリエラのディレクター、オリヴィエ・サイヤール。二人は今ここで、「永遠のドレス」 を作ろうとしている。このドレスが、舞台の主役だ。
「クチュールの規則」をサイヤールは、”Eternity Dress”と題したパフォーマンスにした。
これを着るのはティルダ。
カラダを表す数字から、型紙が起こされ、それがトワルになり、立体になっていく。
沢山の数字がクラフト紙の上で線になっていく
ハサミとトワルで、立体を作る準備。まるでミステリアスなさなぎが形成されていくようだ
不変の規則なのに、服へと変化していく時間は、ティルダを媒介に、とてもミステリアスで、そして昆虫が脱皮して美しくなるように詩的だ。
ティルダは、デザイン画でも描くようにパフォーマンスをしながら、袖や襟の型を決め、生地を選ぶ。
ボディにルージュ(赤)をあててみる_ なんか違う。
ジョーヌ(黄色)を巻き付けてみる_ これでもない。
それなら、透けたオーガンジー_ これも嫌。
ノワール(黒)!
あれでもない。これでもない。いろいろな袖を試してみる
ルージュのティシュー(生地)
ジョーヌはどうだろう?
膝丈の、ロングスリーブの、ノーカラーの、ストーンとしたシルエットの、ノワールの孤独な、でも総ての女性のための永遠のドレスが、仕上がった。
永遠のドレスはティルダのパフォーマンスで、あらゆるドレスに化けてしまう
ティルダは、初対面の人と握手しながら少しずつ親しくなっていくように、この生まれたばかりのドレスをカラダに馴染ませながら、背中部分に深いスリットを入れ、自分のドレスにした。
そして彼女は、「ディオール」「イヴ・サンローラン」「シャネル」「ジバンシイ」「バレンシアガ」「イッセイ・ミヤケ」「コムデ・ギャルソン」「ヨージ・ヤマモト」…とメゾンの名を告げながら、その都度、ポーズをつける。そうするとこの永遠のドレスが、それに見えてしまう。本当にそう見えてしまう。
服と、それを作る人たちにオマージュを捧げながら、このパフォーマンスは、サイヤールの言うように、「20世紀のすべてのドレスの幻影」を見せてくれた。
このパフォーマンスは、「クロエ」のメセナによって実現した
Eternity Dress の制作のために、クロエのアトリエとスタジオで約1年間が費やされた
“Eternity Dress” はパリ芸術フェスティヴァルのプログラムのひとつとして
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。