「あそこは素晴らしいですよ」。とその場所を訪れた人たちは言う。パリからリヨンまでTGV(フランスの新幹線)に乗り約2時間。ローカルバスに乗り換え、約1時間ちょっと。ロワール県のシャゼル=スュール=リヨンという小さな町に到着する。
そこには、誰もが素晴らしいと絶賛する、ラ・シャペルリー 帽子のアトリエ博物館/ La Chapellerie Atelier-Musée du Chapeau がある。
帽子のアトリエ博物館の煙突
■帽子産業の地
la chapellerie / ラ・シャペルリーとは、仏語で帽子製造、帽子店を意味する。シャゼルでは、中世から帽子作りがはじまり、1584年の文献には帽子屋の存在が記されている。19世紀になると帽子作りに機械が導入され、産業として発展。1930年には29の帽子工場で、2500人が従事。帽子の黄金期を築く。
そして帽子の需要減、生産拠点の移転、時代の波がこの町から産業を奪い、1997年にとうとう最後の工場が閉鎖した。「帽子作りの記憶を保存しよう!」。シャゼルの住民たちは、この産業を町の素晴らしい遺産として守るため、「ラ・シャペルリー」の創設に立ち上がった!
■帽子工場をアトリエ博物館に
この町の大手帽子製造販売会社フレシェの工場は、リヨンの山々の眺めが美しい丘にある。20世紀初頭の石造りの建物だ。40メートルの煙突。
「ランバン」「エルメス」「ピエール・カルダン」などのメゾンの帽子も制作していたこの工場は、1976年に閉鎖され、2013年にラ・シャペルリー、先に開館していた帽子のアトリエ博物館がここに引っ越した。
総面積4420平方メートル。帽子のアトリエ、8000点に及ぶ帽子コレクション、ブティック、レストランを備え、企画展やコンクールなども開催される。
ウサギの毛がフェルトになる!
バスティサージュ(フェルト製造のはじめの作業)の機械
■アトリエ見学 うさぎの毛から帽子を作る!
アトリエでは、うさぎの毛が帽子になるまでの工程を見せてくれる。うさぎはいないが、ここでは実際に19世紀の機械が動く。その轟音は、当時の帽子作りが目の前で再現されているかのような素晴らしい体験を与えてくれる。
機関車のような音を立てながら、うさぎの毛をプレスする
①フェルト製造からコーヌ
19世紀、スポーツジムのランニングマシンのようにうさぎをローラーで走らせ、落ちた毛を集めてフェルトにしていたそうだ。
フェルトを円錐にする
ここでは当時のうさぎのランニングマシンからフェルトするまでの流れ作業→フェルトを円錐に→加工を見学。
フェルトを皮のようになめしたり、サメの皮で起毛させたりする
円錐形のフェルトがこれからどうなるのか?後編をお楽しみに!
円錐形いろいろ
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。