1932年9月6日は、世界的な指揮者、岩城宏之の生まれた日です。51年に東京芸術大学に入っています。先生は渡辺暁雄。ある時、渡辺は言った。「来週、希望者に指揮をさせてあげよう」。これに対して手を挙げたのが岩城宏之と山本直純。では、どの曲を指揮したいのか。ふたりとも、ブラームスの「第四交響曲」。岩城著『音の影』に出ている話です。
ところが楽譜がない。図書館に行っても、古書店に行ってもない。結局、戦前からのコレクターを探して、やっと楽譜を借りることができた。それが指揮の前日。徹夜で譜面を覚えて指揮を。その指揮に対する渡辺のひと言。「完全に勉強した曲でなければ、指揮をしてはいけない」。
指揮者といえば燕尾服。岩城が初めて自分の燕尾服を注文で仕立てたのは57年ごろで、それ以前は中古。仕立てたのは「テーラーH」で、黛敏郞の紹介だったそうです。燕尾服は完成。でも、エナメルの靴がない。結局、燕尾服と同じ生地で靴も作ってもらったという。(服飾評論家・出石尚三)