紡績企業 衛生意識の向上が商機に 抗菌・抗ウイルス加工に引き合い

2020/09/21 06:30 更新


 紡績企業が衛生関連素材の供給に一段と力を入れている。コロナ禍で需要が拡大したためだ。繊維事業は衣料消費の減退でかつてない苦戦を強いられているが、抗菌・抗ウイルス素材やマスク用資材などへの引き合いは強い。現在ではまだ事業全体の落ち込みを補えるほどではないが、今回のようなウイルスの世界的流行は今後も起こり得るリスクとして、長期的な視点で商品開発や供給体制の強化に取り組む構えだ。

(小堀真嗣)

■来春夏商談の主役

 シキボウは今春、同社の抗ウイルス加工「フルテクト」を施した繊維素材が、新型コロナへの効果が「期待できる」と発表。新型コロナと同じ種類のウイルスを試験株として用い、特定非営利活動法人のバイオメディカルサイエンス研究会で抗ウイルス性試験(ISO18184準拠)を実施し、その有効性が認められている。

 マスク向けの用途をはじめ、衣料用途としても関心が高く、来春夏に向けた商談の主役になった。「これまで抗ウイルスや抗菌といった素材の採用実績がないカジュアルブランドからの引き合いも出てきた」。寝装分野の需要も盛んという。加工は主にシキボウ江南(愛知県江南市)で行い、内部で効果試験設備を持つため、ロットごとの性能試験を随時実施できる点も強みだ。

 国内と同様に海外でも注目され、同社が重点課題としている海外販売の足がかりにもなりそうだ。フルテクトや抗菌加工「ノモス」などがインドネシアの保健省から販売のための認証を取得し、同省の認証品を紹介するカタログに掲載された。他のアジアの国々でも販売に向けて調査を進めているという。

新型コロナウイルスへの効果が「期待できる」とされるシキボウの「フルテクト」加工をした商品

■単月で前年を突破

 クラボウも抗菌・抗ウイルス加工技術「クレンゼ」関連商品の需要が急増している。クレンゼは繊維表面に固定化抗菌成分「イータック」を強力に固定し、複数の種類の細菌やウイルスに対して効果を確認済み。医療や食品分野のユニフォーム用途に加え、マスク、タオル、一般衣料、ファッション雑貨、布製インテリアといった用途にも拡大している。「前年度の受注実績を4月単月の受注だけで突破した」という。クレンゼのスプレータイプやクレンゼマスクなどをパッケージにした「クレンゼキット」をウイルス感染予防の啓蒙(けいもう)ツールとして学校向けに販売してきた。「衛生意識の高まりで相当需要が高まるはず」と見ている。企業向けも需要が伸びている。

 大和紡績の抗ウイルス加工素材「クリアフレッシュV」は、欧米で承認された安全性の高い無機系機能剤を使い、繊維上の特定のウイルス数を99%以上減少させるという。子供服やカジュアルウェア、コートなどの一般衣料や、裏地、織りネームなどの副資材、帆布や防災用品などの産業資材といった用途で引き合いが増えている。

 日清紡ホールディングスは、日清紡テキスタイルの抗ウイルス加工素材「バリエックス」が重点商品。繊維上の特定のウイルス数を99.9%以上減少させる効果があり、既に山喜や、日清紡グループの東京シャツなどが商品化した。このほか、スパンデックスの「モビロン」は、医療マスク用の耳掛けテープとして販売数量を大幅に拡大している。今後の旺盛な需要を見込み、増設も実施した。これまでの販売実績は年間で約5000万円だったが、今期(20年12月期)は6億~7億円になる見通しだ。

(繊研新聞本紙20年8月24日付)



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