【繊研教室】基本を忘れた改革は「効果ゼロ」

2019/11/11 06:30 更新


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【繊研教室】基本を忘れた改革は「効果ゼロ」 〝飛び道具〟を妄信しない

 私が再建を手掛けた企業が大幅な赤字から黒字に転換した記事が掲載された。生み出した利益は総売り上げの30%、産み出された事業価値は総売り上げと等しいほどだ。私はデジタル企業に所属しているが、本改革ではデジタルのデの字も使っていない。

(河合拓=戦略コンサルタント)

コンサルタントバブル

 私は最近、再建屋と呼ばれるようになったが、本来経営コンサルタントなら結果を出してなんぼである。だが、最近そういう話はほとんど聞かない。「有名なコンサルに依頼したが、リポートだけで数千万円取られた」「先生の言う通りにしたら売り上げが激減した」という話から私の仕事が始まる。過去の分析は目も当てられないほど的外れなものばかりである。

 裏事情をいえば、現在はコンサルバブル。どのファームも人手が足りないほど。なぜ、それほど依頼が来るかといえば、保護貿易拡大や政府の経済政策に対する疑念による消費減少、少子高齢化によるマーケットの縮小、そして、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、クラウドなど、難解なコンセプトによるデジタル・ディスラプション(産業破壊)に対する恐怖心からだ。30年前のアパレル企業のビジネスモデルが通用しなくなっている。

 プロパー消化率が90%を超えていた企業もあった当時とは異なり、現在は勝ち組と負け組は利益差どころか、最高益か倒産かというほど。アマゾンジャパンの売り上げは1兆円を超え、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)の敵はもはや企業でなく国家となるほど巨大になった。米国ではバーニーズの倒産を筆頭に、有名ブランドの店舗閉鎖やリストラが報じられている。

 では、コンサルは未来が見えクライアントを正しい方向に導いているのかというと、全くそう思わない。経営者の言葉を借りれば「効果ゼロ」で、コンサルへの不信は増大の一途。理由は明確で、改革者と称する多くの人はアパレルビジネスの基本的知識も実務経験もないからだ。例えば、AIベンダーの多くはWHAT(人工知能とは何か)は語るが、HOW(いかにビジネスに応用するか)を語らない。だから、世に出るハイテクツールの数々は、衣料品の実消費者(多くは女性)に全く相手にされないようなものが雨後のタケノコのように出ては消えてゆく。

組織設計が過剰在庫を

 私が手掛けた再建企業に話を戻すと、市場が拡大し成長している30年前のまま、ビジネスモデルが浦島太郎のように時が止まっていた。市場が成長しているときは、生産領域に投資し、組織は分業型で商品供給を可能な限り最大化する機能別組織が理にかなっている。

 しかし、市場が成熟し衰退している状況下では「商品供給」以上に「顧客管理と維持」をしっかり行う。組織は機能分業型から権限委譲型とし、事業部組織の裁量範囲を広げ、激しい変化に瞬時に対応できるよう変更すべきだ。


 また、現場の全ての人間が、自分の業務が財務諸表のどの費目に影響を与えているか、自分の仕事の意味と意義が見える工夫が必要だ。しかし、こうした改革の基本は検討の俎上(そじょう)にさえのらず、「古い」といって切り捨てられる。そして、AIなどの飛び道具に飛びつき大事な資本を食いつぶす。

 経営危機におちいる要因は過剰仕入れによるデッドストックだ。従って、MDは「売り上げ」「利益」「在庫」の三つを、クルマで言えばアクセルとブレーキ、そしてハンドルのように自分で操作し、運転するように扱う必要がある。

 例えば、売り上げが予想より落ちても、在庫が残らぬよう仕入れを抑制し、利益を最大化させるなど変化に対応できるよう役割と権限を集中させるべきだ。つまり、組織設計が余剰在庫を生み出している真因なのだ。

個客ニーズの観察から

 しかし、このような分析と真因の特定ができる人材は皆無に等しい。30年前の分業型組織のまま、供給過剰の市場にQRと称し、さらに商品を投入し、デッドストックを増加させ、マークダウンと損金処理で赤字を拡大。こんなことを何年も繰り返している。ここに「改革者」と称する人たちが解決案と称し、的外れな「MDセミナー」や「AIによる需要予測」などを使い業績悪化を増大させているケースを幾度も見た。少し考えればおかしいと分かるのに、本質を見ようとしない。産業変化の潮目、世の中の劇的変化の恐怖心から、ビジネスの基本をおろそかにし、ハイテクツールをノアの箱舟のごとく盲信する。そして、リアルな顧客ニーズを無視し、プロダクトアウト発想のデジタル武装を最終手段と思い、自分の寿命を縮めている。

 自分たちの「個客」が望んでいることを観察し、いかに消費者ニーズを実現できるか、という原則は人が服を買う時代が続く限り、何年経っても不変だ。デジタルありきの改革はいつまで経っても、効果ゼロである。

■かわい・たく アパレル・小売企業をメインに20年のコンサルタント経験、50社以上の実績を持つ。デジタル技術を活用したデジタルSPA(製造小売業)を提唱し、流通企業への導入を進めている。斬新な手法で企業改革を次々に成功させてきた。代表著作『ブランドで競争する技術』(ダイヤモンド社)はアジア各国でも発売。

(繊研新聞本紙19年9月10日付)


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