大手百貨店の業績を支えていたインバウンド需要が減速し、転換点を迎えている。免税売上高は客単価の大幅減に伴って25年3月から減速し、4~7月に前年同期比3~4割の減少を強いられた。前年に円安による内外価格差で高額品の免税売上高が過去最高だった反動が表れた形だ。8月以降は、ほぼ前年並み水準に回復している。外部要因に左右されないインバウンド戦略の構築が欠かせない。
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円安で割安感
25年上半期の免税売上高は三越伊勢丹ホールディングスが25%減の644億円、エイチ・ツー・オーリテイリングが29%減の490億円、J・フロントリテイリングが22%減の469億円、高島屋が29%減の438億円だった。
インバウンドが減速した最大の要因は為替の変動にある。24年4~7月には対米ドルで157~161円に達し、日本での購買が割安な状態だった。
もう一つの要因は、ラグジュアリーブランドなど高額品の価格改定に伴う、駆け込み需要の反動だ。特選や時計・宝飾品は24年1~6月に値上げが集中し、高額品の構成比が高まった。MDバランスの変化による特殊要件が影響した。
VIPを取り込む
インバウンド需要をさらに取り込むために、CRM(顧客関係管理)戦略の強化による海外顧客の固定客化が重要になる。三越伊勢丹は25年4月に海外外商部を新設した。従来の海外外商チームを格上げして増員するなど体制を整備、個のマーケティングを本格化する。さらに海外顧客向けのアプリを25年3月から開始した。海外顧客の識別化を推進し、国内顧客向けアプリと同様に一人ひとりに合わせた商品、サービス情報を提供する。
高島屋はシンガポール高島屋のVIP客1500人を対象に、専用会員カードの運用を日本橋店、大阪店、京都店で24年12月に始めた。外商サロンや免税手続きの優先サービスなどを実施。25年度はシンガポールに加えて、ホーチミン、バンコクの海外店と対象顧客を拡大する。
中国政府が日本への渡航を自粛するよう呼びかけたことの影響は「現段階では大きくは見受けられない」(松屋銀座本店)と限定的だ。団体旅行客は大幅に落ち込んでいるが、主力対象の個人客は堅調だ。ただ、26年2月15~23日の春節(中華圏の旧正月)に向けての見通しは不透明で、今後の動向を注視する必要がある。
(繊研新聞本紙25年12月19日付)