熱戦の裏にジャージーの進化あり――9月20日から、いよいよラグビーワールドカップ日本大会が開幕する。選手たちの熱い戦いだけでなく、技術の粋を集め、デザイン性に富んだ各国の代表ジャージーも見どころだ。
今W杯では、開催国の日本にちなみ、侍(さむらい)の甲冑(かっちゅう)や日の出といった要素をデザインのモチーフにしたデザインが目立つ。日本代表をはじめ、主要メーカーが手掛ける注目の代表ジャージーを紹介する。
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【日本】ポジション別に3種類
日本代表ジャージーは、ポジション別に3種類あるのが最大の特徴だ。フォワード(FW)1列目のフロントロー用、FW2、3列目のセカンドロー・バックロー用、そしてバックス(BK)用だ。
ユニフォームの開発・製造を手掛けたのは、ゴールドウインのグループ会社であるカンタベリーオブニュージーランドジャパン。ラグビー日本代表チームのオフィシャルパートナーとして、97年から代表ジャージーを提供している。
最前列で体を張り、スクラムでは相手FWと直接組み合うフロントロー用は、強いコンタクトに負けない耐久性と安心できるホールド感を実現した。同ポジションには胸部の発達した体形の選手が多いことから、窮屈さを感じないよう立体成型でゆとりを持たせている。
オールラウンダーのポジションであるセカンドロー・バックロー用では、フロントローと同じような耐久性と軽量性、ホールド感とともに、このポジションに適合する独自のシルエットなど、求められる要素のベストバランスを追求した。
ボールを前に進め、相手をかわしてトライにつなげるBK用では、より快適に走ることができる軽量性・伸縮性とともに、相手選手につかまれにくいシルエットと絶妙なストレッチバランスを実現した。
使用するメイン生地も新たに進化させた。前回15年大会時のジャージーは、FW用とBK用でシルエットを変えていたが、メインの生地は同じポリエステルの丸編み生地を使っていた。しかし今大会では、ポジション別に求められる機能に対応するため、異なる生地を採用。相手とぶつかり合うFWには、適度な伸縮性を保ちながら強度に優れる経編み生地を、フィールドを走り回るBKには、伸縮性に優れ、軽量化しやすい丸編み生地を使った。
その結果、15年ジャージーと比べ、FW用生地は耐久性が9%アップするとともに12%の軽量化を実現。速乾性も高めることができた。BK用では耐久性が8%アップすると同時に7%の軽量化を果たしたという。
このほか、袖や脇下、肩部分には、それぞれ伸縮性が異なる生地を使ってラグビーならではの動作を効果的にサポート。縫製段階では、ゴールドウイン独自の「スマートシーム」テクノロジーを活用して縫い目をフラットにし、快適な着用感を実現するなどしている。
【開発者から】カンタベリーオブニュージーランドジャパン事業部長兼企画グループマネージャー 石塚正行さん
19年代表ジャージーに課せられた課題は、ラグビーに求められる究極の機能、つまり耐久性・軽量性・運動性・快適性を兼ね備えることでした。特に相反する「耐久性」と「軽量性」の両立は、私たち開発者にとって永遠のテーマでもあります。
開発にあたり選手たちに15年モデルの評価や感想をインタビューすると、FWとBKでジャージーに求める機能が異なることを再認識しました。特にFWはコンタクトがすごく多いので、体を守るようなホールド感が必要でした。もちろん、軽さやスクラムを組みやすい絶妙なストレッチ性も求められていました。
思い当たったのが、経編みです。経編みはもともと自動車のシートやカーテン、スニーカーのアッパーなどに使われていた生地ですが、耐久性がありながら適度な伸縮性を保てます。また、凹凸のある立体的な組織を作ることができるので、糸を増やさず生地をかさ高にしてホールド感を高められます。そこで福井の生地メーカーにプロジェクトに参加してもらい、約2年かけて作ることができました。
今回、原料選定から糸、素材開発、ガーメントにおける設計、縫製など、すべての工程を国内で行うことができました。正に「オールジャパン」で作られたこのジャージーが、少しでも選手の力になり、勝利に貢献できることを願います。そして、このジャージーを通じて日本が一つになり、一緒に戦える誇りと証しとなればうれしいです。