百貨店の地方・郊外店の閉鎖が止まらない。大手百貨店は不採算店を減らすことで、収益の悪化に歯止めをかけて都心の基幹店や新規事業への成長投資を加速する狙い。
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一方、独立系の地方百貨店はさらに厳しい経営環境が続く。人口減や顧客の高齢化など地域商圏の縮小均衡で、現在の苦境を脱する道筋を見いだすに至っていない。地方・郊外百貨店の構造改革は待ったなしの状況にある。
■歯止めかからず
「できる限り店舗を残したい考えは今も、今後も変わりない」(村田善郎高島屋社長)。高島屋は20年8月に港南台店を営業終了することを10月に発表した。港南台店は16年秋、4、5階にニトリをテナント導入し、自営面積を6層から4層へ圧縮して家賃の低減、要員の再配置を実施。運営の効率化で、いったんは黒字化したが売り上げ減に歯止めがかからなかった。横浜店と同一商圏であることも閉店の判断を後押しした。
併せて、米子高島屋の全株式を地元企業のジョイアーバンに譲渡し、同社と商標などのライセンス契約を結ぶことを明らかにした。米子高島屋は20年3月から新たな親会社の下で事業を継続することになった。17年末に東館と立体駐車場ビルを米子市に無償譲渡し、百貨店の1館体制にして面積を縮小した。その旧東館の再開発を手掛けるのがジョイアーバンで、本館、東館の一体再生を目指す。港南台、米子をはじめ、各店で与件が異なり、一つの処方箋(せん)では解決できない。「事業を継続するため、自営面積の縮小やSCへの業態転換などあらゆる施策を行う」(村田高島屋社長)という。
そごう・西武は地方、郊外立地の5店を閉鎖し、2店を面積縮小する。不採算店の閉鎖は16年にそごう柏店など3店、17年に西武筑波店など2店とエイチ・ツー・オーリテイリングへのそごう神戸店、西武高槻店の譲渡に続くもの。今回の5店閉鎖で10店となる。面積縮小する西武福井店は本・新館の2館から本館だけの営業となり、秋田店は市内SC内にある高級食品スーパーの運営から撤退する。両店ともに地域一番店であり、縮小部分の賃貸区画を返却することで「再び成長軌道に乗せることができる」(林拓二そごう・西武社長)と判断した。
■ローカル化を徹底
大丸松坂屋百貨店は20年3月に下関大丸を吸収合併する。本体と一体化することで、人員の削減や定借化による低コスト運営を加速するとともに、地域産品の開発などのローカル化を徹底する。下関だけでなく「すべての地方・郊外店の方向性を19年度中に示す」(好本達也大丸松坂屋百貨店社長)という。
地方百貨店は衣料品不況などの影響で、急速に収益が悪化している。定借テナント導入による自営面積の縮小など運営コストの削減に着手しているが、一段の事業の選択と集中が避けられない。もっとも、生き残りは簡単ではない。新たに投資する余力がない店舗が多いからで、当面のPOS(販売時点情報管理)システム更新の費用の捻出でさえハードルが高い。建物の減価償却が終わった店舗でも、耐震工事が完了していなければ、新たな大規模投資に迫られる。一部の地方百貨店を除き、自力での再生は難しい。地方・郊外店の画一的な事業モデルがないだけに、店舗の特性に合わせ、上質な商品やサービスといった百貨店の強み、地域の魅力を改めて再構築する必要がある。
(繊研新聞本紙19年12月19日付)