ファッションビジネス企業がEC、ITテクノロジー活用に本腰を入れ始めたのに対して、大手IT企業のグローバル競争がファッション業界にも影響を与えた1年だった。20年は自社内でテクノロジーやシステム、運用・サービスを、社内・パートナー企業とともに円滑にコントロールすることが課題となる。
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■求められる人材
ECでの大きな話題は「ゾゾARIGATOサービスによるアパレル企業のゾゾ離れ」だった。これが自社直営EC強化の流れを強めた。
ゾゾが「ゾゾタウン」で18年末に導入した新有料会員サービス「ARIGATOメンバーシップ」を発端に、ブランドの〝ゾゾ離れ〟を生み、直営EC強化の流れが鮮明になった。ブランドが同サービスに反発したのは、新商品が投入して即値引きされること。加えて、ブランドイメージの毀損(きそん)も問題とした。
5月末にゾゾはサービスを終了。離脱の影響は8月に「ほぼ解消した」としたが、その約1カ月後のヤフーによる子会社化、ファッションECの進展に大きな役割を果たした前澤友作社長の退任への伏線ともなった。
ブランド・小売り側は、ECモールを商品と客とのマッチングの場として活用を続けながら、「直営ECを軸に、実店舗・SNSを駆使したマーケティング」へ向かっている。ただ、IT化では大きな課題も噴出した。大手企業でもECシステム刷新時の不具合で、直営ECサイトが一定期間閉鎖するトラブルが発生した。感性重視のファッション企業でも、EC運営とシステムを理解した人材の確保・育成が重要になった年だった。
■AI、物流デザインも
大手IT企業の動きも注目だった。楽天が東京ファッション・ウィークの冠スポンサーとなったことや、ヤフーとLINEが11月に経営統合を発表したことは、業界を超えたニュースとなった。
特にヤフーとLINEの経営統合はGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に比肩する「世界をリードするAIテックカンパニー」を目指すもの。AI(人工知能)、コマース、フィンテック、広告・O2O(ネットと実店舗の相互送客)、その他新規事業で、高いユーザー体験の提供を追求する。LINEを顧客とのコミュニケーションツールとして利用するファッションブランド・小売店も多い中で、より有効な活用手法、コスト対策などが経営視点として必要になる。
このほか、AI(人工知能)の事業活用、ECの物流コスト対策が重要な経営判断事項となってきた。人材難を迎える今、AIをどう組織内で活用していくか、人の業務とどう調和させていくかをデザインする段階に来た。ECの物流コストアップへの対策は「再配達問題」にどう対処するかが、サステイナブル(持続可能)社会実現の課題とも重なる。企業や業種を越えた連携も注目される。