秋田県能代市のプリント工場のレインボーワールドはデジタル化が急速に進むなか、人が作るぬくもりを今も大切にしながらアナログとデジタルの融合で、染色の無限の可能性を追求している。ハンドプリント、オートプリントのラインは「日本最大級」で、製版からプリント、裁断、縫製、検品、発送までの一貫生産体制が大きな特徴だ。今春には最新のインクジェットプリンターを導入するなど、さらに多様なニーズや提案に生かし、染色の可能性を追求している。
■多様なプリント技術
53年に横浜市で創業し、89年に豊かな水と人材を求めて、現在地に社名をレインボーワールドに改めて移転。横浜の伝統捺染技術を今も脈々と受け継ぎ、川辺グループの一端を担う。スカーフ、ハンカチをメインに服地や傘地、雑貨のプリント加工、加えてテキスタイル事業を行っている。最新の機械設備と培ってきた技術で、オーバープリントや防抜プリント、顔料プリント、オパールやインディゴ、草木染めなど多様なプリントに対応し、高級ブランドから日常的なアイテムまで幅広い商品を生産している。
生産設備はオートスクリーン2台、ハンド捺染台16台で、水洗整理機やオートスチーマー、サンプル用調色機、蒸熱箱各1台などを備えている。染色ではプリントと蒸しを行う工場とプリント後の糊(のり)を落とす水洗い工程は別工場で行う分業が多いが、同社は同じ工場内に設備を整え、「一貫生産で、全ての工程で責任を持って行っている」(稲子健夫社長)という。水洗い作業は使用する水の処理などに設備投資が掛かるが、染色や水洗い過程で出た排水は専用設備できれいに浄化し排水、「周辺の環境や自然に影響を及ぼすことはない」。
作業工程はオーダーされたデザインを製版しサンプルを作成、量産に対応できる糊と染料を調合。シルクや綿、ポリエステルなどアクリル以外の多素材の加工に対応できる。微妙な色や素材の違いで仕上がりに大きく影響するため、「色の再現性は繊細な技術とノウハウが必要」と、確かな技術で取り組んでいる。プリントは枚数や素材、柄の複雑さなどにより、オートか手作業で行う。ハンドプリントは通常の捺染台が25メートルのところ、同社は33メートルの捺染台を使用する。シルク生地は約45メートルで、長い板を使うことでより効率的にロスがないように作業ができる環境を整えている。オートプリントは1度に14色を染めることができる最先端のフラット型自動スクリーンで、生地幅60インチ用と54インチ用を揃え、広幅の生地がプリントできる。オートでも生地が流れていく工程でどうしてもゆがみが生じるため、布目を調整するなど職人が目を光らせて仕上げている。
プリント工程が終わると蒸す作業に。染料が生地に付着している状態から、蒸気熱によって染料を化学反応させることで、生地に色を定着させる。そして、水洗機で余分な色糊を洗い落とし、乾燥機で乾かし色落ちを防ぐ。最終的には水洗い工程で生地の縮みやしわを伸ばす幅出しを行い、規格サイズに仕上げている。さらに検反、裁断、縫製、アイロンを行い、最終検品後に隣接する物流センターで発送まで請け負う。
■高品質で低コスト
一貫生産は「全てを自社工場で行うことで、高品質・低コストが実現できる」と、メリットを強調する。外注費や流通費、中間マージンのカットなどでコストの削減や納期の短縮ができる。また、分業では不良品が出た場合、どこに責任があるのか分からないケースもある。一貫生産は原因を追究し対応するなどの製品管理で、オーダー先の安心感と信頼感につながり、強みとなっている。
新たに導入したインクジェットプリンターは、中国最大のインクジェット捺染機メーカーのAtexco製で、国内代理店の東伸工業の技術サポート受けて、日本での導入第1号機となる。導入した最大のポイントは「両面プリントが可能で、裏抜けが必要な製品向けに、裏表一体のプリントができる」こと。ほかにないプリントで、これまにないハンカチやスカーフのプリントの提案や生産で、染色の可能性が広がることに期待している。
13年以降に設けた服地やテキスタイル事業部も大きな工場の武器となっている。単にオーダーを受ける「受け身」から、営業をかけてプリント生地の提案や大手アパレルのブランド別注などを積極的に行っており、「工場の稼働が広がっている」という。
工場勤務は約70人。多様でアナログな工程もあり、専門的な人材も重要となるが、「効率的に1人が何通りかの作業が行えるようにしていきたい」と、ジョブローテーションにも取り組んでいる。技術の伝承には、人材の定着やモチベーションアップも課題。そこで、職能給の導入や4月から若手の役職登用制度を始めており、「若手の抜擢(ばってき)で、やりがいなどが上がっている」と感じている。
《チェックポイント》環境への配慮も重点
秋田県の地域資源である秋田杉やあきたこまちから、自社で染料を抽出した天然草木染めの開発など、地域活性に取り組んでいる。また、製品にならないような反物・ハンカチを割き編みしたバッグなどのアップサイクル商品の提案なども行い、「常に視点を消費者に向けた顧客第一主義」で、生活の豊かさと社会に貢献できる企業を目指している。
二酸化炭素排出削減には、熱交換器やドレンの回収によるボイラーの燃費を削減している。地域のクリーンアップ活動にも積極的に参加し地域環境の整備に努めている。また、定期的な地元海岸のクリーンアップにも参加し、海岸漂着物の回収など実績を上げている。
工場から青森県側には、世界遺産の白神山地がそびえ立ち、自然の豊かさとだいご味が感じられる。SDGs(持続可能な開発目標)の取り組みが企業の重要課題となっているが、この自然を見ていると環境への意識が高いことが分かる。
《記者メモ》社員一人ひとりが高い意識
工場に行って驚いたことは、30年以上経過する施設や日々使用される機械が奇麗な状態で保たれていること。染料を扱う工場だけに、床などが汚れているイメージがあったが、「いつ建てられた」と思うほど奇麗に掃除されている。
「良いものを作る、届けるためには環境を大事にしないと作れない」との考えが受け継がれており、工場の管理が徹底されている。整備された環境で作られたプリントは品質にも妥協がないように見て取れる。
各工程の作業場は整理整頓されており、社員一人ひとりが高い意識を持って、日々取り組んでいることが分かる。社員の休憩室は畳敷きとなっており、リフレッシュできる環境に。染色への探求心と環境への取り組みがあって、高品質なプリント製品が作られているようだ。
(古川伸広)
(繊研新聞本紙22年5月18日付)