松屋銀座 会員制パターンオーダースーツの狙いとは?

2018/05/07 04:45 更新


《販売最前線》松屋銀座本店の会員制パターンオーダースーツ 狙いは役員・管理職 絞り込んだ企業・顧客と親密に

 松屋は今春から完全予約制の紳士パターンオーダー(PO)スーツ販売を本格化した。従来の不特定多数の顧客を対象にするのでなく、都心の大手企業に勤める役員、管理職らをメーンターゲットにしたクローズ型会員組織「マツヤ・メンズクラブ」として昨秋に立ち上げた。百貨店のコンテンツ、ソリューションを活用し、ワン・トゥ・ワンの接客サービスで顧客との関係を深める。

(松浦治)

都心3区の大手企業へ

 松屋は19年の創業150周年に向けて顧客の組織化などに取り組んでおり、このサービスも新たな収益源の確立を目指す新規事業開発の一環。法人・個人の外商や紳士服売り場の既存顧客ではなく、これまで百貨店に来ていなかった客の潜在需要を掘り起こす。

 顧客組織化で対象としたのは、松屋銀座本店のある中央区をはじめ、千代田、港の都心3区の大手企業に勤務するビジネスマンだ。「仕事が忙しくて時間がない」と百貨店での買い物に煩わしい思いがある一方で、身だしなみの大切さを強く意識している層に切り込んだ。

 事業を統括する鈴木秀和松屋銀座本店副店長は「海外のエグゼクティブとの商談など会社の代表として振る舞わなければならない機会が少なくない立場にある。日本ではビジネスでファッションの要素が敬遠されがちだが、相手に好印象を与える身だしなみは国内外を問わず、仕事をする上で大切」と強調する。大企業で働くビジネスマンの成功をサポートすることを、マツヤ・メンズクラブの目的の第一に掲げた。単にPOスーツを売るだけでなく、ビジネスに役立つ情報発信に力を入れる。

POスーツ

 クローズ型の会員組織にしたのは顧客との関係を深めるとともに、価格を抑えるため。限られた顧客を対象とし、直接買い付けで中間コストを排除したインポート生地を適量・適価で調達する。POのエントリープライスは5万円から設定。NBや専門店、ECに比べると高いが、高級インポート生地をずらりと揃える。独自ルートで現地買い付けしたことで、同水準の生地を使った他社製に比べて半値のPOスーツもある。仕立て上がりは5万円のほか、生地のグレードに応じて7万円、10万円を基本にした。

 縫製は国内で、これまでの松屋のリソースを最大限に生かして日本の熟練職人が仕立てる。生地のほか、天然素材ボタン、フル毛芯、キュプラ裏地、袖口の本切羽、ハンドワーク風ピックステッチなど高級スーツの仕様を細部まで採用する。納期は約4週間となる。

POスーツには高級スーツの仕様を採用(左から、インポート生地、天然素材ボタン、AMFステッチ、キュプラ裏地、本切羽)

顧客の成功をサポート

 販売会は完全予約制で銀座本店5階の自主編集売り場「アトリエメイド」で春と秋の年2回実施。接客時間は平均1時間弱で、生地選び、採寸などコンサルティングによる百貨店の販売サービスを付加する。

 当初は管理職を想定していたが、30代の買い上げが50代を上回った。リピート率は4割に達し、新規顧客の獲得に結び付いた。また、購入したスーツに合わせてネクタイ、シャツのコーディネート提案を電子メールで送信するサービスを今春から始めた。コンサルティング販売による接客サービスにデジタル化を組み合わせて、顧客との関係を強化する。

専門販売員が接客サービスする銀座本店5階「アトリエメイド」

 会員組織を支えるのが宮崎俊一シニアバイヤーの存在だ。国内縫製やインポート生地の調達など長年かけて構築したネットワークを生かすほか、その知識や経験をビジネスマン向けに情報発信する。会員企業の要望に応じて無料講習会を開催。宮崎バイヤーはこれまで大手企業の新入社員、新任役員の研修で講師を務めており、正しいスーツの選び方や着こなし術など日々のビジネスシーンに役立つ内容で講演する。

「スーツの最大の間違いはサイズ」という宮崎シニアバイヤー(左)
会員企業の要望に応じて無料講習会を実施

 会員企業は昨秋に十数社でスタートした。今春には40社、登録者数1500人まで拡大している。金融、生保、証券、建設、不動産、マスコミなど大手企業が名を連ねる。「既存の取引先や法人外商のルートはあえて使わず、企業ごとに個別にアプローチした」(鈴木副店長)と新規顧客の開拓を重視した。

 売り上げは今春で9000万円の実績で、今秋1億1000万円を見込む。今後の課題は参加企業、会員数の拡大のほか、一部デジタル化したシステムを広げてマーケティングに活用すること。2年目の19年度に黒字化する見通しで、早期に収益に結び付ける。商品を並べて顧客を待っているのでなく、ターゲットを絞り積極的に外に出る戦略で百貨店の事業領域を広げる。マツヤ・メンズクラブの挑戦は顧客目線による新たな接点で関係を築いていく好事例になる。

顧客の声から生まれた クリーニング・保管サービス

 マツヤ・メンズクラブは3月から、事業者向けクラウド型物流システムを手掛けるトランクと協業し、スーツに特化したクリーニング・保管の新サービスを始めた。「高級生地だが、クリーニングが心配」「新しい服を買いたいが、クローゼットがいっぱい」など顧客の声から生まれた。

 クリーニングと保管(6カ月)を一緒にして提供する。クリーニングは宮崎シニアバイヤーが工場に出向いてスーツに合ったプレスの仕方などを監修し、保管はスーツに最も適した環境を整えでオフシーズンの期間預かる。荷物の出し入れ、配送、保管をクラウド上で完結しており、顧客は専用クリーニングバッグにスーツを入れて送る手間だけで済む。預かったスーツは一点一点写真を撮影。アプリ上でアルバムのように閲覧することができ、スーツの取り出し(配送依頼)もアプリで簡単できるようにした。

 クリーニングと保管がセットの利用料はスーツ3着で1万円、スーツ1着で5000円 。



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