【パリ=小笠原拓郎、青木規子】24年春夏パリ・コレクションは、シンプルなラインが勢いづいている。これまで装飾をふんだんに取り入れていたブランドも、今シーズンはいつになく削(そ)ぎ落としたデザインが目立つ。ハンドクラフトの技術を入れながらも、最終的にはシンプルに仕上げたラインが注目だ。
(写真=ヴァレンティノ、バレンシアガは大原広和)
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ヴァレンティノはこれまでになくシンプルなラインへと変化した。白、ブルー、ピスタチオ、グリーン、黒、赤とそのバリエーション。ヴァレンティノらしい繊細で美しいトーンだが、アイテム自体はとてもシンプル。その中に手仕事の技が散りばめられている。手仕事を生かしながらもフィニッシュはあくまでもシンプルに。この間のトレンドの大きな特徴ともいえるこのラインをヴァレンティノも出している。
ミニドレスやセットアップにはレリーフのような立体的な装飾が取り入れられる。花、鳥、パイナップルといった立体パーツがシンプルなアイテムの中に秘められている。素材も張りのあるコットンやデニムがレリーフの立体感でスペシャルになる。スエードのケープはカットアウトのディテール。ドレスも含めてカットアウトはウエストのサイドからバックにかけてが多い。ビジューのクロシェドレスも繊細でゴージャスな素材をシンプルなラインに閉じ込めた。
シンプルな中に秘めた手仕事、それはトレンドの大きな要素でもある。ただ、7月のオートクチュールがクリエイションという点では圧倒的であったためか、このプレタポルテがこぢんまりと見えたのも事実。もっとその細かな手仕事が伝わるような演出であれば、より魅力を発揮できたのかもしれない。
バレンシアガは赤い緞帳(どんちょう)が下りた四角い劇場のような空間で新作を披露した。ショーのモデルにはクリエイティブディレクターのデムナの母親をはじめ、アントワープ王立芸術大学で教えていたリンダ・ロッパさんやパリのファッションアイコンのダイアン・ペルネさんといった人たちがキャスティングされた。そのキャスティングを見る限り、デムナのパーソナルな個人への思いが背景にあるように感じられる。高齢の女性を含めて、様々な世代の男性や女性がモデルとなった。そして男性モデルがヒールの靴を履いて紳士靴をバッグのように持って登場することもまた、多様性を象徴する演出のように感じられる。パスポートと航空チケットを持って歩くモデルたちからは、自らのアイデンティティーを理解して自由に旅立つようなメッセージが込められているのかもしれない。