《ニュース2016》大手アパレルの構造改革

2016/12/26 15:54 更新


何より商品の強化が不可欠

 ファッション消費の低迷が叫ばれた16年だが、なかでも百貨店の衣料品不振は深刻だった。百貨店を主な販路とする大手アパレル企業のダメージは大きく、今年も構造改革の推進を余儀なくされた1年だった。店舗閉鎖、ブランド撤退のニュースが相次いだが、この余波は来年も続きそうだ。そこには単なる消費不振だけで片付けられない、構造的な問題が横たわっているからだ。

 

狭まる対象顧客

 大手アパレルの不振の構造は、三陽商会が自らの本質的な課題として列挙した項目に象徴される。同社が10月末に開示した「構造改革と新経営計画の目指す方向性」で、現状の課題として挙げたのが、「衣料品、百貨店チャネルに偏重した事業構造」。具体的な中身は、①中高価格帯の衣料品に偏重した商品構成②百貨店チャネルに偏重し、小売りノウハウも脆弱(ぜいじゃく)③強みである良いモノづくりの、顧客視点からの乖離(かいり)。

 大手アパレルはこれまで、百貨店という強力な販路と優良な中間層という消費者に守られて、事業を運営してきた。良いモノを作れば売れるというのは一面では真実だが、より安価で適度な品質、適度なトレンド性を兼ね備えたSPA(製造小売業)、セレクトショップが台頭した今は、大手アパレルの強みの多くは失われてしまった。

 いきおいマスマーケットからの距離が遠くなり、こだわりの素材、縫製を使って差別化するということでしか、存在感を発揮できない事態におちいっている。それでは、ごく一部の顧客を対象にしたビジネスに終始せざるを得なくなってしまう。

 

歴史が逆に弱みに

 歴史のある企業である点も、今はかえって弱みになっている。歴史の長さは、高いブランド価値につながる半面、人件費、管理コストが重くのしかかり、新興企業に比べて負担が大きい。人員削減に乗り出した企業もあるが、依然として高コスト体質から脱却できていない。ただ、社員の高年齢化に対しては一定の対応が可能だが、一番の問題は、高齢化に伴って、商品企画がマーケットから乖離していくことだ。アパレルにとっての肝は消費者が欲する物、魅力的な商品を企画、開発していくこと。そしてブランドを磨き上げること。その点、社員が若く、商品企画やECへの投資でスピード豊かに取り組むことができる新興企業との差は歴然としている。

 逆に、大手アパレルが自負してきた物作りの力は、消費者の優先順位が低くなっているのが現状だ。人員削減、コスト合理化、資産の入れ替えは各社が相当力を入れてきたが、何より大切な商品企画の強化が欠かせない。

 もはや若年層の多くは百貨店で服を買わないし、百貨店に並んでいるような価格帯の服を買えない。このまま大手アパレルは百貨店そして中高年層を主なターゲットとして、彼ら彼女たちとともに年齢を重ねていくのか、それとも新たな顧客や販路を創造して、新たなファッションを生み出していくという、アパレル企業本来の姿を大事にするのか。世の中の流れは速い。立ち止まっている時間はない。

現状打開に向けては新たな仕掛けが欠かせない(三陽商会の「ブラックレーベル・クレストブリッジ」が17年春夏から投入するカプセルコレクション「ブラック・ラボ」)

 



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