メンズセーターの「ナヤット」 糸の特性と情緒を凝縮

2020/05/21 10:59 更新


 メンズセーターのブランド「ナヤット」は、18年のファーストシーズン以降、一つのアイテムのみを作り続けてきた。デザイナーは「ヨウジヤマモト」でニット部門を担当していた依田聖彦(よだ・まさひこ)。そのぶれない姿勢は見事で、形はほぼクルーネック、糸はだいたいミドルゲージ、色はダークトーンとスタイルを貫いている。3シーズン目の今年は10型のみ。コンパクトなコレクションは派手ではないが、風合いや色を表現するためのさじ加減は絶妙だ。厳選したアイテムの中にこだわりを凝縮している。

 毎シーズン、コレクションは糸作りから始まる。糸の配合や加工を試しながら、新しい質感や新しいニュアンスを探っている。3シーズン目の今年は、ナヤットの原点にある「手」を強く意識した。

 最もシンプルなセーターは、スポンジ性の高い羊毛、クランフォレストを筒編み糸リリヤーンにして、弾力性やかさ高を最大限に引き出し編む強さを調整して手編みのような風合いに仕上げた。深いグリーン系のセーターは濃淡の緑の羊毛に青や赤、茶の綿を混ぜた静かな色を表現、グレンチェックのセーターは手で微調整しながら起毛して奥行きを作るなど、どれも糸から仕上げまで手が加わっている。セーター3万~4万円、ニットのジップブルゾンは6万5000円。納品は秋以降。

20年秋に納品されるセーター(3万6000円)

 ブランド名は、糸を織る、かごを編むなどを意味するサンスクリット語で、ニッティングの語源でもある。「あらゆる繊維には特有の物質性があり、多様な情緒がある」という依田の言葉にも糸へのこだわりが表れている。ブランドではセーターを通して、「糸が持つ多様性をたしなむこと」を目指しているという。

 販売はBtoC(企業対消費者取引)のみ。今年は1月末~3月中旬に、各地の本屋やホテルで商品を見てもらいながらオーダーを受け付けた。同時にオンラインでも受注。依田を信頼する顧客はすでに多く、受注会に来られなくてもオンラインで発注して商品が届くのを楽しみにする人もいるという。アナログな口コミやツイッターなどで認知が広がり、今回の受注数は昨年の3倍以上になった。全て受注生産。

展示会では新作をまとめた冊子も配られた

 ウェブサイトには、各セーターに使われている糸の写真や糸番手、ゲージ、メインの糸品種、重さに加え、加工や表現、風合いについてテキストと写真で詳しくつづられている。そのため、一つひとつに対するデザイナーの思いが伝わりやすく、イメージも膨らましやすい。メンズとしてデザインされているものの、性別を限定しない許容力もあって女性客も多い。

ウェブサイトでは成分表のように商品の詳細が書かれている

 通常のコレクション以外の取り組みも面白い。卸を行わないブランドだが、小売りからの問い合わせが増えるなか、ナヤットと縁のある人たちと、感性を組み合わせて作る「パートナーシップ」プロジェクトを開始した。アイテムやテーマの希望を受けて、サンプルを提案し、コミュニケーションを重ねながら最終プロダクトに着地する。ミニマム1型30枚から受け付けている。ほかにもシーズンの商品以外のデザインを探るために開始した「リミテッドコレクション」では、スヌードを販売した。



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