今回はキャリアの大半を占めた商品企画時代の話をします。35年ちょっとこの業界で仕事をしてきましたが、経営者としてのキャリアは5年ほどに過ぎません。それまではデザイナーでした。
デザイナーは時代の空気感や気分を形にする仕事ですが、自分の場合は多産型でした。色々考えて必要数の何倍も企画し、絞り込んでいく。煮詰めきったものですから、一見、普通に見えても膨大な作業のエッセンスが細部に宿っています。
経験からデザイナーに必要な要素を挙げるとすれば、今の情報を常に入れることと、過去を振り返ること。新聞やテレビで国内外の出来事をインプットしつつ、歴史をたどって類似する時代を見つけ、当時の人の装いを学ぶ。例えば、今紛争が起きているのであれば、過去の似たような時代にどんな格好が好まれていたのかを掘っていく。
大切なのは本質を探る力です。トレンドのスタイルの背景に潜むものは何なのか。例えば、ビッグシルエットが続いているのはなぜか。見た目の新鮮さだけではないはずです。「生活者は何かしら圧のかかった状態から抜け出したい」というのが答えなら、そのムードはどこから来たのか。それを探って形にするのがデザイナーの仕事です。
ゼロイチを生む仕事はなかなかしんどいものです。でも、刺激的で誰にでも出来るものではない。それがだいご味。そんな大変な作業を支えていたのはチームワークです。チームをどう運営し、いかに個々の能力を生かしていくかを考えるのは経営の立場の今も変わりません。
(TSIホールディングス社長)
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「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。