英国卒業コレクション:サステイナブルと次なる流れ(若月美奈)

2019/07/09 06:00 更新


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今年の卒業コレクション取材も、先日のセントラル・セントマーチン美術大学の卒展でほぼ終了。英国全土、さらには世界の卒業コレクションを集めた「グラデュエート・ファッション・ウィーク」(6月20日付本紙で紹介)も含めると、今年も数多くの作品を見た。

新しい才能との出会いはやはり素晴らしい。最近はロンドン・コレクション取材以上に卒業コレクション取材から、たくさんのエネルギーをもらっている気がする。

それにしても、今年のセントマーチンBA(学士)の卒業ショーはすごかった。

その様子はインスタグラムなどで拡散され、ショー自体を見ていない友人からも「今回のセントマーチンすごかったね」という話が出るほどなのだから、現場でそれを目の当たりにした時の興奮は並大抵のものではない。

なんたって、背丈の1.5倍ぐらいの高さまで大きく膨らんだ風船の中に入ったモデルが登場し、ランウエーの途中で立ち止まって背中に止めてあった風船の先を外すと、噴火口のようにてっぺんから空気がするすると抜け、モデルが両手を伸ばして風船から抜け出すと、その風船がドレスやスカートになる、というマジックを見ているかのような驚きの作品である。

学内選考で選ばれた43人のコレクションのトリを飾った、ノルウェー出身のフレデリック・チャレンゼンさんの作品で、大賞に当たるスポンサーのロレアル・プロフェッショナルが授与するヤングタレント賞を受賞した。


ライフ配信されたセントマーチンの卒業ショー。フレデリックさんの作品は1時間15分あたりに登場

フレデリックさんの登場で、その前の42人の作品の影が薄くなってしまった印象は拭えないが、今回のセントマーチンのショーは、まるで劇画のような、あり得ないものが現実になるという突拍子のないアイデアと楽しさに溢れていた。

樹脂で固めて大きく風になびいたような形で固定されたジャケットとか、2枚仕立てにしてウエスト部分がカラダから離れたスカートなどなど。1時間半に渡る長いショーは、飽きるどころかもっと見たいと思う気持ちとともに終了した。

アイデアを形にする。クリエイティビティーを鍛える。そうした、このところないがしろにされているようにすら思えるファッション学生にとって一番大切なことを、正面から投げかけられたから、そんな充実感を得られたのだと思う。

それと同時に、卒業ショーだけでなく若手デザイナーのコレクションにおいても、ここ最近これでもかとばかりに登場するサステイナブルを前面に出した作品群に疑問を感じていたので、それを超えた作品が相次ぎ登場した今回のショーを見て、「ファッションってやっぱり素晴らしい」と素直に感動した。

ファッションにとって、もはやサステイナブルは「ウリ」ではなく「当然」なものなのである。

サステイナブルなものづくりのシステムをクリエイトすることも今日のデザイナーの大切な役割の1つかもしれない。でも、それは工程であって目的ではない。少なくともファッションショーでコレクションを発表するデザイナーは、見るものがその作品に心を動かし共感する、新しいクリエイションにパワーをもらう、何だかわからないけれど無性に気になるといった、ファッションの持つエネルギーを発信するデザインで勝負できるかどうかにかかっているのではないかと改めて思う。

ちなみに、ショーの3週間後に卒展でフレデリックさんに作品について話を聞いたのだが、この素材は天然のラテックスで生分解性のあるサステイナブルなもの。様々な素材を試したが、これに落ち着いたそうだ。

 コレクションのテーマの1つに子供の頃のノスタルジーがあり、風船はそれを象徴したもの。アートピースとして販売する可能性はあるが、服としては考えていない。「モデルは窒息しないの?」という質問には「酸素で膨らませているので、3時間ぐらいは大丈夫だよ。それを超えると死んじゃうけど」と笑って答えてくれた。

卒業後はどこかのブランドに就職するということは考えず、自分で何かをはじめたいそう。取り急ぎ現在は、秋に計画しているこのコレクションをより大規模に見せるイベントに注力しているそうだ。

観客とモデルが入り混じった王立芸術大学のショー

王立芸術大学はMA(修士)とあって当然のことながらレベルは高い。2014年のゾーイ・ブローチ主任教授就任以来、卒業ショーも毎回趣向を凝らしたコンセプチュアルな見せ方をしている。

今回はレディス、メンズ、アクセサリー合わせて51人の卒業生がそれぞれ1人のモデルに新作を着せ、ショーとプレゼンを合わせたような形式で見せた。観客が散らばる会場に、モデルたちが一斉に登場して、床に記された線で繋がった丸の上に立ってスタンバイ。「ワン」、「ワン、ツー」というアナウンスの声とともに次の丸へと進む。

作品もコンセプチュアル。モデルの性も体型も様々で、ダイバーシティー(多様性)を印象付ける。バイオベースの素材や伝統的なクラフトワークを積極的に取り入れたサステイナブルなコレクションがベースになりながらも、セクシーでフェティッシュなイメージのデザインが目を引いた。

王立芸術大学のショー。1人の学生につき1人のモデルだが、アクセサリーの学生は5つの作品を見せることも可能

ミドルセックス大学は今年もテキスタイルに凝ったカラフルなデザインがリード。学内選考で選ばれた18人のうち、15人がショー、3人がインスタレーションで作品を見せた。

プリントやコラージュが溢れるミドルセックス大学のショー

「ここは他のロンドンの大学に比べて英国人の比率が高いので、英国の教育システムの現状や問題点が浮き彫りになっている」と語るのは、テキスタイルで教鞭をとる「イーリー・キシモト」の岸本若子さん。

以前はどの大学でも、ファッションデザイン学科へ入る前に、ファンデーションコースと呼ばれる、デザイン全般を学ぶ基礎学科で1年学ばなければならなかった。ところが最近はそのコースをスキップして直接ファッションデザイン学科に入れる大学もでき、ミドルセックス大学もその1つだそうだ。

そこで、学生たちの意識がまだ成熟していない、精神的に子供な学生が多いと岸本さんは指摘する。

そういえば、長年ポートレート撮影などをお願いしていて、現在はセントマーチン美術大学の写真学科の主任教授をしている友人も、ファッションデザイナーになりたくてファンデーションコースに入ったが、写真やグラフィックなど様々な分野のデザインを学ぶうち、写真の面白さにハマり、写真学科に進んだと話していた。

ファンデーションコースは、自分が本当にやりたいことを探る意味でも、貴重な時間なのかもしれない。

もっとも、この大学のショーで何よりも印象的だったのはフィナーレに登場した学生のほとんどが女子だったこと。彼女たちの卒業コレクションは、ダイナミックかつウェアラブルで前向きなムードに包まれている。ガールズパワー万歳!

そんな風に、卒業ショー取材は、英国の教育現場に触れ、そこから近い将来のロンドンデザイナーたちの傾向のようなものが予知できる点でも面白い。

そういう点で興味深かったのはリージェンツ大学の卒業ショー。英国の大学はほとんどが公立だが、最近私立大学もでき始め、現在全国に6大学ある。リージェンツパークの中という素晴らしい環境の中に校舎を構えるこの大学もその1つだ。

ファッション学科ができてまだ日が浅く、今年が初めてショー形式で作品を見せたという段階で、クリエイティビティーという点ではまだ未熟だが、丁寧に作られた作品が揃った。

なんと、この大学のファッションデザイン学科の卒業生は、17人のうち英国人は2人だけ。香港も2人いるがその他は皆違う国からの留学生だという。

それにしても読めない名前もいっぱいで、いったいどこからの留学生? 

そう思って会場で配られた冊子をみると、学生の名前とともに出身国が記されていた。オマーン、ウクライナ、スペイン、マレーシア、セルビア、パキスタン、インド、スウェーデン、トルコ、スリランカ、ブラジル、フランス、タイ、カザフスタン。

なんともダイバーシティーな大学である。

リージェンツ大学のショー。フィナーレにモデル(両脇)に次いで登場した卒業生たち(中央)

ロンドンの大学の卒業ショーで、中国人留学生の多さに圧倒されたのは7、8年前ぐらいだろうか。その後、ロンドン・コレクションに中国系デザイナーが次々とデビューし、気がつけば、今では人数的にも注目度でも無視できない存在になっている。

現在、ロンドン・コレクションに参加しているデザイナーの半数以上を英国以外の国出身のデザイナーが占めている。といっても、その大半がヨーロッパ諸国。そこに韓国や中国が加わり、最近はインドや中東が目立ち出した。数年後にはさらに様々な国籍のデザイナーたちの活躍が見られることになるのだろう。

長くなったが、やはり最後にセントマーチンの卒展に触れておきたい。

今年もマテリアル・フューチャーズ学科(MA)が群を抜いて面白かった。その名の通り、未来の素材を作る学科で修士課程とあって研究内容も奥深い。この学科については2015年にこのコラムで、「未来の素材を作る学科」というタイトルで紹介しているので、是非そちらを。

この学科では、ファッション関係だけでなく様々な分野の素材を研究しているのだが、入り口にドーンと展示を構えていたのは、バイオベースで作るスパンコールを発表したエリサ・ブルナートさん。プラスチックの代用素材という、まさに今求められている研究とあって、サステイナブル関係のいくつかの賞を受賞している。

エリサ・ブルナートさんのコーナー

ファッションブランドにとって、サステイナブルは基本であってウリではないと書いたが、それを常識にするためには、サステイナブルな素材を開発するメーカーと研究者の力があってのことだというのは言うまでもない。

その素材を研究する学生と、これまで見たこともないようなクリエイティビティーを見せるデザイン学生。その両輪で興奮するような秀作に巡り会えた今回の卒業コレクションはいつになく充実していた。

≫≫若月美奈の過去のレポートはこちらから

あっと気がつけば、ロンドン在住が人生の半分を超してしまった。もっとも、まだ知らなかった昔ながらの英国、突如登場した新しい英国との出会いに、驚きや共感、失望を繰り返す日々は20ウン年前の来英時と変らない。そんな新米気分の発見をランダムに紹介します。繊研新聞ロンドン通信員

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