副資材を扱う三景の三国事業所 日本のアパレル生産を支える黒衣

2023/11/13 06:30 更新


 伊藤忠商事の子会社で副資材を扱う三景(東京)は、総合力が強みの国内屈指の副資材商社であると同時に、メーカーとしての顔も持つ。その中核拠点の三国事業所(福井県坂井市)は国内トップシェアのポリエステル裏地染色の基幹工場となっているほか、芯地や細幅織物など幅広いアイテムを製造する。パンツの腰裏に使われるマーベルトや補強用のスケット芯を指定サイズにカットするなど縫製工場のサポート役に徹し、黒衣ながら日本のアパレル生産になくてはならない存在となっている。

クリーンな現場環境

 福井の大型工業団地、テクノポート福井にある三国事業所は、96年に開設、97年に裏地染色など主要工場の操業を開始した。敷地面積は約13万9000平方メートルあり、三つの建屋に複数の機能が分かれて点在する。商社だった三景がメーカー化を進めるきっかけとなったのは88年の福染興業(現三景フクセン工場、福井市)への出資で、後に三国の新工場開設につながった。

天井高が高く、整然とした工場内

 三国の染色工場は、北陸産地の中で最も新しい部類。建屋の天井高は4階建て相当の吹き抜けで、他に見ないような広々、整然とした空間だ。ポリエステルとキュプラ、2素材の裏地染色を手掛け、連続染色機、コールドバッチ染色、高圧液流染色機8台を持つ。染工場では一般的に、液流染色を終えると手作業で生地を引っ張り出して次の工程へと運搬し、染色機周辺の床はぬれているのが普通。しかし同工場は液流染色機に直結したパイプで次の工程に運搬されるため、足元の環境もクリーンな上、人手もかからない。ここで月150万メートルを生産し、月200万メートルのフクセン工場と合わせ、ポリエステル裏地では7割以上のシェアを持つ。

液流染色機から直結のパイプから生地を送る

 芯地の開発力も高め、19年には接着芯地の設備を増強した。ペースト状とパウダーの2種類のバインダーを組み合わせるダブルドット製法で、薄くて柔らかな生地とハリ・コシのある生地それぞれに適した設備を使う。不良率は1%以下という高い品質レベルを実現する。

 細幅の平ゴム製造ラインでは織機35台、編み機4台を持つ。スパンデックスのカバリング糸製造から、織り・編み、染め、仕上げまで一貫で行う。自社では主にパンツのウエストなどに使われるストレッチのインゴムを製造している。

パンツのウエストなどに使われる平ゴムの織機
平ゴムはカバリング糸から一貫生産する

 パイピング用、伸び止め用などのテープは、原反を斜めにカットし、任意の幅のテープに加工する。最近は裏地や芯地を使わないカジュアルな製品も増えているが、パイピングでアクセントを加えるといったニーズがあり、テープの重要性は増している。常にストック在庫を抱え、即納できる体制を整える。

縫製工場の手間を代替

 納入先の縫製工場のニーズに応え、現場の手間を代替するような付帯業務も強化してきた。例えばパイピングなどのテープの二つ折り、三つ折りといった折り加工はかつては縫製現場で行われていたが、取引先の要望で三景が手掛けるようになった。パンツの腰部の芯に使うインサイドベルトやカーブゴム、補強用のスケット芯、腰裏に装飾や機能を付与するマーベルトなども指定の長さにカットして納める。「国内縫製工場のサポート役に徹してサービスを拡大してきた。困りごとがあれば相談してほしいと話している」という。

 商社機能と合わさった物流業務も三国事業所の重要な役割だ。全国の国内縫製工場向けの発送をカバーし、同工場で製造する裏地・芯地やテープ類以外にも、ボタン、織りネーム、下げ札など様々な副資材や生地をまとめ、縫製アイテム単位にパッケージして発送する。生地は定測カット機28台と反物包装機3台を活用し、指定の長さにカット・梱包(こんぽう)する作業を1日2000回行っている。

アイテム単位に資材をまとめ、縫製工場に発送
アパレル生産に必要なあらゆる副資材を扱う

 また福井、岐阜といった近隣から順にエリア別に分別し、発送先を集約することで配送効率を追求する。「集約率」は19年の23%に対し、今年は目標を上回る37%を達成する。「24年問題」など物流をめぐる課題も浮上する中、効率輸送の追求は重要テーマだ。生地を送る際、これまでは長さが短くてもしわ防止のために紙管に巻いて送っていたが、畳んでの配送が可能な取引先には「物流費が半値に抑えられる」といったメリットをアピールし、コンパクト輸送につなげている。

 海外縫製拠点へも三国事業所から発送し、上海なら定期フェリーへの積載で48時間で着く。通関士が常駐し、港の乙仲を介さずすぐに船積みできるクイックさが特徴だ。倉庫機能も代替し、表地や中わたなどのパッケージ輸送も可能だ。取引先は国内外の縫製工場など1万社、それにアパレル企業の直貿部隊などあるが、三景の機能を活用してもらうことで、ワンパッケージにしてアパレル生産をサポートする。

通関士が常駐し、即船積みが可能

 コロナ前は年50組ほどアパレル関係者の見学を受け入れ、今年から見学受け入れを再開、多くの来客が復活している。現場でメーカーとしての姿を知ってもらい、東京・外苑前のショールームと合わせて、困りごとの解決につなげる。

《記者メモ》太陽光発電パネル設置も

 副資材メーカーは黒衣の存在ながら、アパレル生産に欠くことはできない。中でも国内外の縫製現場を支える三景三国事業所の立ち位置は重要。それを再認識させられたのは18年の福井豪雪だ。37年ぶりの大雪で交通インフラが寸断され、同事業所からの発送も全面ストップした。物流の混乱は2週間続いたが、縫製現場から「生産が止まってしまう」と苦情の電話が殺到した。今、縫製現場の人手不足が深刻化し、「三景の役割も見直されている」という。

 近年は環境配慮にも力を入れ、敷地内には2メガワットの太陽光発電パネルを設置済み。将来は売電から自家利用への転換を計画し、100%再エネ化も視野に入れる。

(中村恵生)

(繊研新聞本紙23年10月4日付)

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