都心の人口減少・高齢化とSCのリスク(小松崎雅晴)

2017/04/08 15:00 更新


1.はじめに

これまで見てきたように、人口減少・高齢化は確実に進んでおり、特に団塊の世代が70歳台に乗る今後10年間は年齢構成の変化が極端に大きくなる。当然、マーケットへの影響も大きいと考えられ、状況変化に対する予測と対応が重要な意味を持つことになる。

マーケット変化の予測は、様々なマクロデータの組合せを中心にして、あとは常識的な肌感覚の連想で十分成り立つことが多いから特別なことと思う必要はない。

基本的な統計データの多くは、政府、あるいは地方自治体が公表しており、インターネット環境さえあれば比較的容易に入手できる。

例えば、住民基本台帳をベースにした人口推計は毎月更新されているし、自治体によっては町丁目別、男女別、年齢別までも知ることができる。国勢調査、商業統計、経済センサスなど全国レベルで行われる調査結果を当該自治体レベルで知ることもできる。

ここでは、日本で一番大きな「市」である横浜市の都筑区にある港北ニュータウンを例にして、都市型ニュータウンの人口変化とマーケットのリスク(特に大型商業施設、ショッピングセンターへの影響)について見ていくことにする。

2.都市型ニュータウンの概要とリスク

横浜市都筑区の港北ニュータウンは20世紀の大型ニュータウン開発の一つとして注目された都市型ニュータウンである。

横浜市の人口は約370万人。人口推計からは、2010年を100.0とすると、2015年101.7、2020年101.7にピークを迎え、その後2025年100.7、2030年99.0、2035年96.7、2040年94.0と減少するとされる(日本の地域別将来推計人口 平成25年3月推計)。

それに対し、港北ニュータウンを中心とする都筑区は2010年100.0に対し、2040年125.2と人口が増加する。年少人口も横浜市2040年68.7に対し都筑区87.3、生産年齢人口横浜市77.0に対し都筑区105.6と全国的に見ても比較的若い世代の人口は維持される。

ただし、65歳以上人口は2040年横浜市142.7に対し都筑区274.3、同様に75歳以上人口(再掲)横浜市209.4に対し都筑区321.3と65歳以上人口の増加率は全国的にみても極端に高い。2040年までに増える総人口51千人よりも60歳以上人口の増加53千人の方が多いからエリア内の年齢構成の変化は大きい(ただし、それでも65歳人口率は全国平均よりも低い)。

地方創生が盛んに叫ばれ、地方の過疎化ばかりが注目されているが、はじめて買い物難民が言われたのが横浜市栄区の公田町団地であるように都市部には都市部の構造的問題がある。

典型的な都市型と考えられる都筑区を例に、都市型ニュータウンとそこに立地する多くの大型商業施設、ショッピングセンターが抱える将来のリスクについて検討してみる。

(1)都筑区の人口、世帯数   ★データは「統計で見るつづき 2016(平成28年)年度版 都筑区統計要覧」

総人口212,170人、世帯数81,361、人口密度7,610人/km²。平均年齢40.7歳(平成28年9月30日現在)は横浜市18区の中で最も若く、合計特殊出生率1.54(平成27年中)は横浜市18区の中で最も高い。また、世帯人員2.61人は横浜市18区の中で最も多い(平成29年1月1日)。

転入者数8,532人、転出者数8,200人の内訳は、それぞれ0-5歳11%、8%、6-14歳6%、8%、15-19歳3%、3%、20-29歳23%、25%、30-39歳29%、25%、40-49歳14%、16%、50-64歳7%、10%、65-74歳3%、3%、75歳以上4%、2%と子育て世代中心にほぼ同じ年齢構成で転入、転出が起こっている(いずれも平成27年中 資料;政策局統計情報課)。

平成7年(1995年)と平成27年(2015年)を比べると人口は112,237人から212,170人、世帯数38,988も81,361と20年間で約2倍になっている。全国と比べると、比較的年齢の若い子育て世代を中心に人口が増えている。

しかし、それでも時間の経過とともに、年少0-14歳人口、生産年齢15-64歳人口、老年65歳以上人口の構成比は、平成12年19.9%、72.1%、8.0%から平成28年には16.8%、67.2%、16.0%と確実に高齢化が進んでいる。

(2)港北ニュータウンの構成   

都筑区は面積27.87km²、東西 5km、南北7km弱、縦長の菱形をした地域である。中央を市営地下鉄グリーンライン、ブルーラインが通り、センター北駅、センター南駅を中心に地下鉄沿線に沿う形で商業施設、人口とも集中している。

港北ニュータウンでは「複合・多機能都市」を目指していろいろな構成要素を配置しており、区の中を町丁目単位で見ると、新たに開発され、多くの人が移り住んだ地域、以前から人が住んでいた地域(農家数は横浜市18区中最大)、農地など、地域によって多くの違いが見られる。

「統計で見るつづき 2016年度版」(都筑統計要覧)によると、町丁目の面積が3 km²弱から0.1 km²未満までとかなり大きさに開きがあることも影響しているが、町丁目単位では、人口100人未満から1万人超、人口密度700人/ km²未満から3万7千人/ km²超、平均年齢(平成28年9月30日現在 都筑区40.7歳)は32歳未満から50歳超、老年化指数(老年人口65歳以上÷年少人口0-14歳×100)も30未満から400超、年少人口構成比は10%未満から25%超、65歳以上人口構成比は10%未満から40%弱、…というように極端に大きな違いがある。

「統計で見るつづき 2016年度版」には老年人口割合、年少人口割合、人口密度を町丁目別に色分けした地図が掲載されており、地域別の状況をより詳細に知ることができる(下の図参照)。



典型的な都市型と思える都筑区も、町丁目レベルでは、様々な特性のエリアが複雑に入り組んで出来上がっていることが一目で分かる。

道路、鉄道、商業施設などの他、将来の推計人口とともに合わせて見ると、将来この地域に起こると考えられる様々な問題点をシミュレーションすることができる。

(3)都筑区の中心 港北ニュータウン

港北ニュータウンには、港北 TOKYU S.C.(47,760 m2)、モザイクモール港北(39,386m2うち都筑阪急16,352m²)、ショッピングタウンあいたい(29,017m²)、ノースポート・モール(72,727 m²)、ルララこうほく(19,700 m²)、港北みなも(約64,000 m²)、ららぽーと横浜(約93,000 m²)、イケア港北店などの大型ショッピングセンター中心に、スポーツオーソリティ、トイザらス、ホームセンターコーナン、ニトリ、ヤマダ電機、オリンピック、OK、ビックヨーサン、食品館あおば、ヨークマート、マルエツなどの食品スーパー、…等々、さまざまな業態の商業施設が集中しており、周辺エリアからの集客力も大きい(住所は港北区であるが、すぐ近くにトレッサ横浜約60,000m²もある)。

隣接する横浜市港北区339千人、緑区180千人、青葉区308千人、川崎市高津区225千人、宮前区225千人の人口だけでも約130万人いるため、都筑区と合わせると150万人、半径10~15Km圏内には300万人規模の巨大商圏があることになる。(平成28年1月1日住民基本台帳人口総計)



3.推計人口から読み取る将来の姿

(1)都筑区の状況 (日本の地域別将来推計人口 平成25年3月推計)

下の表は、都筑区の推計人口の推移を年齢別に整理したものである。




人口の年齢構成比と消費の傾向を見ると、世帯の消費支出が最も高い40歳代(290,532円)、50歳代(296,283円)人口が2020年をピークに減少し、特に2030年以降、減少幅が拡大する。その分、人口が増えるのが60歳代(247,525円)、特に70歳以上(202,563円)であるから、消費支出総額は減少し、消費傾向も大きく変わることが考えられる(⋆( )の数値は1か月平均の消費支出 家計調査 総世帯 平成28年 2016年)。

家計調査と合わせてみると、年少人口の減少と高齢化が進むと、①教育費 (40歳代23,565円➡50歳代17,558円➡60歳代1,101円➡70歳以上332円)。②交通・通信 (40歳代43,862円➡50歳代45,604円➡60歳代31,912円➡70歳以上19,931円)、③被服及び履物 (40歳代12,753円➡50歳代12,092円➡60歳代8,532円➡70歳以上5,943円)などの減少が目立つようになることが想定できる。

④食料は大きく減少しないが(40歳代71,514円➡50歳代69,101円➡60歳代66,161円➡70歳以上55,820円)、年齢が上がるにしたがって穀類、魚介類、野菜・海藻、果物などへの支出が増え、飲料、酒類などへの支出は減少する。同様に、世帯人員の減少が多分に影響しているが、⑤外食も高齢化に伴い減少する(40歳代17,442円➡50歳代14,261円➡60歳代9,162円➡70歳以上6,286円)。

★ただし、食料の支出金額を世帯人員(40歳代3.18人、50歳代2.61人、60歳代2.27人、70歳以上1.85人)で割り、一人当たり支出額に換算した場合、40歳代22,489円➡50歳代26,475円➡60歳代29,148円➡70歳以上30,173円と高齢化するほど金額が多くなり、見え方は全く変わる。単身世帯の増加により調理をしない(食品スーパーで原材料を買わない)世帯の増加、総菜などへ消費のウエイトが移る、あるいはサービス付き高齢者住宅、給食へ移行するなど、今後の社会構造の変化による変化も想定する必要がある。

★食料は消費支出と似た動きをし、世帯人員が1人から2人に増えると約6割増、以下1人増えるごとに2割ずつ増え、4人で1人の約2倍になる。言い換えると、一人世帯の消費支出は、4人世帯の一人当たりの約2倍になる。単身世帯の増加は効率の悪い消費構造の世帯の増加を意味し、特に嗜好性の高い商品への支出が減少することも考えられる。

被服費及び履物は、世帯人員が1人から1人増えるごとに約5割ずつ増加していくというように、費目により世帯人員の増え方と金額の増え方に一定の法則が見られるが、この傾向も今後変わる可能性がある。

(2) 隣接する5区の状況 (日本の地域別将来推計人口 平成25年3月推計)

下の表は、都筑区に隣接する5区(横浜市港北区、緑区、青葉区、川崎市高津区、宮前区)の推計人口を年齢別に整理したものである。




グラフからも分かるように、総人口は大きく減ることはないが、2020年以降、急激に60歳代+70歳以上人口が増加する。

40歳代+50歳代は2020年41万人、2025年40万人をピークにその後減少する。40歳代+50歳代と60歳代+70歳以上は2025年ほぼ同じになり、その後逆転する。

20歳代+30歳代は、2010年には40歳代+50歳代、60歳代+70歳以上よりも多かったが、2015年には40歳代+50歳代に抜かれ、2020年には60歳代+70歳以上にも抜かれて、その後下がり続ける。

都筑区以上に年齢構成の変化が大きく、極端であることから、隣接する5区の消費支出総額、消費内容に関する変化は都筑区以上と考えられる。

(3)年齢構成変化に伴う商業施設への影響

商圏の高齢化により大きく影響を受けると考えられるのは、損益分岐点が高く、テナント構成の中心が20~40歳代をターゲットとしたアパレル企業である大型ショッピングセンターだろう。

すでに多くのショッピングセンターで核テナント、主要テナントの顔ぶれが似通っていることを考えると、近隣に立地する複数のショッピングセンター、商業ビルなどが差別化できなくなることも考えられる。

現在は、大きな商圏人口を背景に、多くの大型商業施設が共存できているが、今後、年齢構成の大幅な変化により、子供衣料を含めたアパレル消費の中心を成す20歳から59歳人口が大きく減少する。

グラフからは、現在がまさにピークであり、今後5年ないし10年の間に状況が様変わりすることも十分想定できる。

実際に商業統計を見れば、平成19年と比べて平成26年には小売業 商店数;都筑区1,236➡897、横浜市20,398➡14,217、従業員数;都筑区12,684人➡11,694人、横浜市182,313人➡148,080人、年間商品販売額;都筑区2,706億円➡2,782億円、横浜市37,194億円➡34,756億円と減少傾向にある。

港北ニュータウンの中心であるセンター北駅、センター南駅は歩ける距離であるが、街全体はモータリゼーションを前提としたつくりになっている。高齢化により行動半径が狭まり、移動手段が公共交通機関などに限られるようになると、市営地下鉄の駅、バスのルートなどを外れた中小型店舗、特にコモディティを中心とする単独店への影響は大きいだろう。

IKEA港北では新横浜駅との間にシャトルバスを運行し、送迎を行っているが、そのような施策が取れない単独店は、いずれターミナル中心に集約せざるを得なくなることも考えられる。

人口が減少しない状態で、年齢構成の変化(同時にデジタル化の進展もあるが…)が消費=商業施設にどのような影響を与えるのか、全国的に見ても珍しいケースであるが、地方の中核都市には参考なるかもしれない。




商圏人口や年齢構成の変化など、商圏とする街が変化していく様子が想定できれば、いつまでに、どのような対応をとる必要があるのか、その大枠も見えてくる。

推計人口からは、都筑区、港北ニュータウンのピークといえる良い状況は現在から5年、長くても10年くらいと予測できる。その期間を猶予期間と考えて準備するのか、あるいは全くそんなことは考えずにこれまで通りの日々を送るのか...対処の仕方次第で将来は大きく変わるだろう。

百貨店や総合スーパー(GMS)閉店の発表が続いているが、多くの人が集まる都市部の低迷、衰退は大型の箱物が多いだけに対応が難しい。地方とはまた違う大きな課題を抱えている。

基本的な方向は物販からサービスへの移行であるが、百貨店や総合スーパー(GMS)がバブル崩壊後20~30年かけて解決できなかった課題(サービスの生産性が低く、サービスに転換したのでは物販だけの生産性が確保できない)であることを考えれば、根本的に発想を変えるべきだろう。

観光業界がsightseeingからsightdoingへと転換してマーケットの変化に対応したことを考えれば、物販を中心とした大型商業施設だけで収益を上げるビジネスモデルそのものを捨て、集客と収益を上げる機能、構造を再設計する必要があるだろう。

新たなクリエーター、プロデューサーが必要である。

★HOME’S総研が発表したレポート「 Sensuous City[官能都市] ―身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」なるものがある。

詳細は省くが、それによると、港北ニュータウンがある横浜市都筑区は「街を感じる」「自然を感じる」「歩ける」などの評価は高いが、「機会がある」「ロマンスがある」「匿名性がある」が大きく平均を下回り、「共同体に帰属している」はたまプラーザがある横浜市青葉区と共に平均よりも低いという。

人工的に造られ、人が集められた都市は、商業施設、公園・自然など、いろいろな要素を計算して造っても、どこか人的要素(社会性、人間らしさなどの魅力 ???) が希薄なのかもしれない。街が高齢化した時にどのような違いが生まれるのか、評価の違う都市と比較してみる必要があるかもしれない。



こまつざき・まさはる エム・ビィ・アイ社長 芝浦工業大学工学部情報工学科非常勤講師。76年芝浦工業大学工業経営学科卒、76年イトーヨーカ堂入社。82年産業能率大学入職(経営開発研究本部・主幹研究員)、97年退職、現在にいたる



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