今春発表された日本アカデミー賞の最優秀作品賞は『侍タイムスリッパー』。ミニシアターでひっそりと封切られた映画がSNSなどで広がり、全国規模の上映が続く。興行収入は3月末に10億円を突破し、インディーズ系映画としては異例のヒット作に。製作費は2600万円、監督が貯金を使い果たし資金を捻出したことも話題を呼んだ。
物語は幕末から始まる。斬り合い中だった武士がタイムスリップ。現代生活にとまどいながらも、剣技を生かして時代劇俳優として生きていく。
映画は終盤に意外な展開を見せる。かつて闘った2人は会津と長州という幕末の敵同士。その後長州が天下を取り、敗者となった会津は過酷な処分を受ける。その歴史を知った会津藩士は、映画撮影にもかかわらず再び命を懸けて真剣で勝負することになる。
結末は述べないが、非合理とも思える勝負に臨む会津藩士は「武士の一分」を強調する。侍が命を懸けて守らなければならない名誉や面目という意味である。藩の汚名をそそぐためには、避けて通れないという意地だ。
本作は規模や資金力は劣っても、しっかりした仕事ができると証明した。そして、人や企業は時に非合理であっても譲れない部分がある、というメッセージも発信する。効率、スピード、合理性は大切だが、自らの譲れない一分だけは忘れずにいたいものだ。