桐生の経編みメーカーの松井ニット技研が、事業譲渡先の公募を始めた。有力デザイナーブランドとも取引した経験があり、ストールやマフラーの自社ブランドで海外販売も行ってきたが、職人が高齢化し、後継者もいないため決断したという。価格や条件は話し合って決めるそうだが、設備、取引先、技術ノウハウなどを譲り渡す。
国内のテキスタイル産地企業の多くが同様の事情を抱えている。現場の人手は慢性的に不足し、経営の後継者難に直面している企業も多い。特に、家族経営の小規模な事業者は財務基盤もぜい弱だ。産地のサプライチェーンを下支えしてきた撚糸業者、小規模機屋らの廃業・倒産が続いており、日本のテキスタイル産業の足腰は着実に弱っている。
失った時にようやくその価値に気づくことがある。染色工場が廃業を決めた際、「お宅にしかできない加工だから継続してほしい」と取引先が慌てて飛んできたことがあったそうだが、時すでに遅し。廃業を決意するまでの経営者の苦悩を思うと、じゃあ続けましょうとはならないだろう。
テキスタイル産業が直面する課題の解決は容易ではない。「やめる時に買い手がないということは、そもそもビジネスモデルとして成立していないんですよ」――産地企業の関係者が自嘲気味に話した言葉が耳から離れない。