岡山県のJR児島駅から路線バスに乗り、東へと走る。車内放送されるバス停は、明石スクールユニフォームカンパニー前や尾崎商事倉敷工場前など繊維業界の人にはなじみの名前。ジーンズや学生服をはじめ、児島が日本を代表する繊維産地の一つであることを実感する。
「一昔前までね、一家に1台は必ずミシンがあった。今でも少し年配の女性なら誰でもミシンを踏めるのと違いますか」。車内で知り合った人が懐かしそうに話す。4月1日に一斉納品する学生服などは、企業の事業所だけでは生産が追い付かないことも多く、地元の内職さんがフル稼働で応援したのだという。
繊維産業は、糸や生地、染色や編み立て、縫製と多様な工程を経る。川の流れに例えて、川上・川中・川下と呼ばれることも多い。名の通った企業だけでなく、それぞれの工程には、内職のほか、様々な付帯業務を手掛ける中小、零細企業の存在が欠かせない。
日本全国の繊維産地で、こうした個人、零細企業が人知れず消えていく。産業構造の転換と言えばそれまでだが、今後の日本で自動車やハイテク産業、サービス業などが、どこまで雇用の受け皿になれるのだろうか。自宅で子育てや家事をこなしがら自分のリズムで働き、一定の収入も得られる。夢のある内職の新しい形がもう少しあっても良いはずだ。