10年ほど前、販売職の皆さんと雑談していると「入荷した新商品を段ボール箱から取り出す時、わくわくする」とよく聞いた。「可愛い服、格好良い服が入ってくるとテンションが上がる」。
気になった服は休憩時間や開店前、閉店後のわずかな時間に試着し、フィット感やシルエットを確かめる。実際に着ておくと接客の際、どんな体形、肌の色にその服が合うか、コーディネートはどう提案すべきか把握することもできるとのことだった。
最近は新たに入荷した服を「着ない」販売員もいる。「お客様が試着した時にフィット感もシルエットもわかる」からわざわざ自分が試す必要はないという考え方だ。
個人の判断ではなく、勤務時間中の試着は禁止という店もある。本社から商品の特徴や着こなしのポイントは伝えるし、売りたい商品はトルソーを使ってスタイリングを組むから客にはそれで商品の特徴が十分伝わるということらしい。
来店前に目当ての商品をチェックする客が多いし、店も忙しいから販売員が試着する時間がもったいないという理屈もわかる。でも、ネットでは購入に踏み切れないからと来店した客に、説得力のある接客ができるのは、その服を着た経験のある販売員の方だろう。実店舗はリアルでしか提供できない体験価値をもっと大切にした方が良いと思う。