肖像画は基本的には〝注文画〟であるから、アーティスト(芸術家)ではなくアルチザン(職人、工匠)だった。肖像画が肖像写真へと変わっていくなか、注文を受けることなく描いた風景画などを欲するコレクターによって芸術家となっていく。そんな趣旨の話を百貨店の美術バイヤーから聞いた。
最初に思い浮かんだのは学校の音楽室に飾られた音楽家の顔。才能ある画家による絵でも、注文を受けて写実的に描いたものだから芸術家とは呼ばれなかったのだろう。ある辞典はアルチザンを「職人的芸術家。技術は優秀であるが、芸術的感動を呼ばない制作をする人を批判的にいう語」と説明していた。
芸術の世界では「芸術的感動」の有無がアーティストとアルチザンの差のようだが、分業で成り立つ工業製品としてのファッション商品は違う。アーティストにあたるのは、チーフデザイナーやディレクター、プロデューサーなど、糸や生地を作るメーカーや縫製工場で働く職人がアルチザンになるだろうか。
言うまでもないが、アーティストの創造性だけで良き作品(商品)が生まれるわけではない。アルチザンによる品質の追求が欠かせないし、注文を受けるだけではなく創造性に関与しているアルチザンもいるはずだ。「買って良かった」感動は、販売を含めたチームの力によってもたらされる。