精神科医の斎藤環さんと作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんによる『なぜ人に会うのはつらいのか』という本に、人と会うことは「暴力」だという趣旨のことが書かれている。誰かと会うのは、互いの自我領域に踏み込むという意味で暴力と言えるらしい。
馬の合わない人でも仲の良い人でも、いざ会うとなると面倒に感じる経験は誰にでもあると思う。リモートワーク中、対話もオンラインで、寂しく感じる人がいる一方で、会わない方が気持ちが楽だという人も結構いるだろう。
本は人と会う効能についても触れていて、それは会う方が話が早いからだそうだ。何かを決める時、頼む時、理解してもらいたい時は、直接会って話す方が臨場感を持って互いの意図を伝えあえるので、決断から行動に移すまでの過程にかかる時間を短縮できる。
ファーストリテイリングが有明本部に企画から生産、販売まで全ての機能を集めたのは、各部署が必要に応じて直接話すことで即断、即決、即実行ができるよう、「会う」メリットを追求した企業の事例の一つだ。
個人的な経験でも、取材は画面越しより直接会う方が、相手の態度や姿勢、感情など言外のニュアンスを含め、より多くの情報が得られる気がする。コロナ禍で働き方が変わっても、直接会うことの意義はたぶん薄れないのだろう。