《めてみみ》アートが開く未来

2021/10/05 06:24 更新


 10月1日に早稲田大学国際文学館(村上春樹ライブラリー)が開館した。4号館と呼ばれた建物を改装した。かつて学生運動が盛んだった時期にあるセクトが占拠していたところだ。その地下室で69年にジャズライブが開かれた。

 仕掛けたのは田原総一朗さんで、ライブの最中に左翼や新左翼の学生たちが入り乱れて乱闘になる映像を撮りたかったらしい。敵対するセクトが大隈講堂のピアノを勝手に4号館に運び、フリージャズのピアニスト山下洋輔さんのトリオが演奏した。

 いざ演奏が始まると思惑は外れ、対立するセクト同士はけんかもせず、皆黙って聞き入ってしまった。ライブ音源は後にレコード化された。そのライナーノーツに山下さんは「ジャズは芸術でもなければ作品でもない」と記したが、その場にいた学生たちの気持ちに何かしら響く演奏だったとは思う。

 それから半世紀以上を経て4号館は、村上春樹さん寄贈の著書や資料を集めた、国際的な文学や翻訳文学の研究拠点として生まれ変わった。

 村上さんは「学生たちが自分たちのアイデアを自由に出し合って、それを具体的に立ち上げていける場所にこの施設がなれば」と話した。優れたアートは主義や思想を超えて人の心を動かす。アートを軸に開かれた学びの場を作ることは、ポジティブな未来を描くために今必要と思う。



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