全く突然のことだった。3月26日、バングラデシュで縫製工場が集積するナラヤンゴンジのアダムジーEPZ(輸出加工区)が新型コロナウイルスの感染を防ぐため封鎖された。ここでカットソー工場を運営する丸久のマルヒサ・パシフィックは、道路が完全に遮断され、製品を出荷できない事態に陥った。
工場にいた日本人駐在員も閉じ込められ、銀行での決済にも支障を来した。ロックダウン(都市封鎖)は全土に及んだが、やがて解除されないまま工場は次々と再開されていく。マルヒサ・パシフィックが再稼働したのは5月2日だった。
仕掛かっていた生地や製品をどうするか、納期はどうか、発注先と話し合いを重ねた。日本でも店舗が営業できず、先が見通せない状況だったが、多くは着地点を見いだしていった。
ダッカでアパレル生産・貿易業を行う44TT・NAOジャパンの持田成彦社長も「緊急事態宣言下にもかかわらず、そしてキャンセルすれば楽になるにもかかわらず、引き取ってくれた」ことに感謝する一方で、供給者としての責任を果たすことの重要性を知らされたと振り返る。
それでも約束を守らない企業はある。都合よく工場を使い倒すやり方は、コロナ禍の傷口に塩を擦り込む。そうした企業や人にはこれまで以上に厳しい目を向け、業界を変えていく必要がある。