《めてみみ》手仕事に宿るもの

2018/10/25 06:25 更新


 堺市の伝統産業の一つが、ゆかたや手拭いに使われる注染だ。工程の多くが人手のため、柄が微妙に異なり、素朴な味わいが出る。その半面、人件費の安い海外生産へと流れやすい。価格競争だけなら国内で戦うのは難しい。往時は堺も染工場だけで10社を超えたが今は数社。1社当たりの職人の数も大きく減っている。

 注染は、「板場」と呼ばれる糊(のり)付け、染料が広がらないように糊で囲う「土手引き」、注ぎ染めなどの工程に進んでいく。板場では、台の上に生地を置いて型紙を被せた後、染料をつけない柄の部分に木ベラを使って糊をのせていく。

 一見簡単な単純作業だが、気温で変わる糊の粘着度合いを見極めながら、均一に糊を引くのは熟練の技が必要だ。力の要る作業であり、手との摩擦により、ヘラは少しずつ擦り減っていく。20年以上使い込まれたヘラには、その職人の手型、指の型がくっきりと残る。

 日常の手仕事のなかに美を見出す日本独自の「民芸運動」。昭和初期から始まった運動を引っ張ったのが柳宗悦で、「民芸」という言葉自体が彼の造語だと伝えられる。柳は日本の民芸を「神の英知が宿る」とまでたたえた。目の前の服の評価だけでなく、それが作られた歴史や環境、作る人の労苦や思いをどこまで伝えていけるか。日本の衣料が生き残る大きな条件となる。



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