《めてみみ》一針一針

2018/06/28 06:24 更新


 7月半ばから8月下旬にかけて、奈良の国立博物館で「糸のみほとけ」と題した特別展が開かれる。刺繍や綴織(つづれおり)の技法を使って、お経や仏の姿を表現した古来の作品を展示する。「當麻曼荼羅(たいままんだら)」をはじめとする国宝3点が一堂に会するのは「空前の企画」という。

 糸で縫う、織物を織るという行為は、故人の追善につながるとされる。仏画を題材に選べば、供養の重みはさらに増す。庶民が作った品々はめったに残らないが、当代一流の職人が心を込めた秀作が現代に伝わる。その多くはお寺の本尊として、人々の厚い信仰を集めてきた。

 社会人生活も長くなると、親しかった人の訃報に接することが増えてくる。先日も訃報欄で、ある人の死去を知った。若いころに業界の仕組みなどを丁寧に教えてくれた人だ。長年お会いしていないにもかかわらず、ぎょろっとした目玉や独特の話しぶりなど、往時の姿が懐かしく思い出される。

 業界の経営環境が目まぐるしく変わる。技術の進展もすさまじい。変化のスピードが日々速まるなか、取材先とじっくり腰を据えて会話することも少なくなってきた。いかに大きなアパレルメーカーであろうと、基本は一着の服の積み重ね。亡くなった先達を含め、一針一針に込められた思いを忘れず一期一会を大事にしたい。



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