《めてみみ》福塩線の車窓から

2017/06/15 04:00 更新


 JR西日本の福塩線は広島県東部の福山から塩町まで走るローカル線。沿線にはデニムやジーンズ、ユニフォームなどのメーカーが数多くあり、業界関係者にも、なじみ深い路線だ。各駅停車に揺られながら、車窓に広がる田園や山河を見ていると、文字通り都会の喧騒{{けんそう}}を忘れるくらい穏やかな気持ちになる。

 二十数年前になるだろうか。沿線にユニークな縫製工場があると聞き、取材に訪れた。当時の松岡繊維工業、今のマツオカコーポレーションである。中国生産による事業拡大を進め、ミャンマーやバングラデシュ進出も早かった。今も日本屈指の衣料OEM(相手先ブランドによる生産)企業である。

 この沿線には、同社以外でも日本の繊維産業を代表する企業が生まれた。デニムのカイハラ、ユニフォームの自重堂、紳士服の青山商事などだ。路線全長でも80キロ、山間部を除けばわずか50キロ程度の距離にこれだけの有力企業が集まるのは珍しい。

 小さな地元企業の社長に理由を聞くと、江戸時代からの綿作りや絣の伝統、旧福山藩の人材育成の成果などの説があるという。もちろん、真相はわからない。今後も予測しづらい大変化の時代が続く。10年、20年後には、また新たな企業が台頭しているか。その社長も「いずれ自分たちも立派な会社にしますから」と元気な声だった。



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