物作りの未来像とは④生産ロスのない物作り実現へ

2017/07/18 04:30 更新


《連載 物作りの未来像とは 工場のIoT・自動化④》生産ロスのない物作り実現へ 横編みやPLMなどを活用

 価格と価値のバランスが消費者から厳しく求められる昨今。トレンドが読みにくい状況もあり、迅速な対応かつ、生産のロスを減らす物作りの仕組みが求められている。

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◆横編みのメリット

 顧客が欲しいときに欲しいものを提供するためには、工程が少なければ少ないほど理想的。織物に比べて一般的に糸から製品までの工程が少ない横編みは、生産と売り場が直結する仕組みとして有利な部分が多い。そうした意味で島精機製作所の無縫製ニットを生産する「ホールガーメント」横編み機への関心が世界的にも高まってきた。前期は中国、韓国でも販売が伸び、今期は1200台(前期707台)の販売を見込む。3Dのバーチャルサンプルなども作れるデザインシステムや、横編み機をネットワークで結び、リアルタイムのオーダー管理などを可能にするニットPLM(製品ライフサイクル管理)を活用すれば消費地での素早い生産ができ、カスタムオーダーがすぐに生産に反映される仕組みも不可能ではないはずだ。昨年10月には、島精機製作所が持つホールガーメントの生産子会社にファーストリテイリングが出資し合弁会社化した。この取り組みには、そうした新しいビジネスプラットフォームを実現する狙いもあるだろう。

 また、横編みを使った新しいビジネスモデルとして注目を集めているものの一つとして、イギリスのニットブランド「UNMADE」がある。消費者がニットの柄をウェブ上で自由に配置変更でき、データを工場に送ることでオリジナルのニット製品が作れるサービスを展開。完全なオリジナル商品を消費者が作れるわけではないものの、使用する糸は限られているため生産側の負担も少ない。既存の生産設備を活用しながら、新しい形の物作りを実現したプラットフォームと言える。

◆スマートファクトリー

 一方、企画から生産の各工程をつなぐシステム開発にはCAD・CAM(コンピューターによる設計・生産)メーカーが積極的。AGMSを傘下に持つ長園和鷹智能科技は自動化工場に注力している。山東省には同社の技術を導入した紳士オーダースーツ工場を建設。日産2500着で従業員1200人、ハンガー10ライン、自動裁断機(CAM)8台、延反機4台を設置。自動倉庫や工程間に自動搬送機も導入している。店頭に設置した3Dボディースキャナーと組み合わせることで、よりスピーディーなオーダーメイドが可能になる。そのほか、上海に日産4000着の婦人オーダー工場を、安徽省に日産1万着のジャケットやパンツなどの量産工場を建設している。

 レクトラ・ジャパンも「レクトラ・ファッションPLM」の新バージョンを開発した。同社の自動裁断機「ベクター」と連携することで、どこの工場でどの生地を裁断するのがいいのかといったコストシミュレーションなども可能。モバイル対応も強化し、商談中に生産計画の変更なども行える。

◆何を実現するのか

 IoT(モノのインターネット)化やインダストリー4.0は、ビッグデータの活用など課題もまだ多いが、より効率的な生産を可能にしつつあることは間違いない。ただ、当たり前のことだが、効率的な生産ができたからといって、必ずしも売り上げにつながるとは限らない。デザインが重要であったり、場合によっては非効率な生産方式で作ったものの方が売れるのがファッションの面白いところでもある。

 IoT化は、新興国にとっては主に高効率で高品質な生産が目的。先進国にとってはそれに加えて、消費地型生産や単品生産を実現するための技術として注目されている。中小の産地企業が多い日本のファッション製造業はやや世界とは環境が異なるため、何を実現したいのかという部分もしっかりと考えていかなければいけない。世界の潮流も踏まえたうえで、日本の技術力と組み合わせてIoTを導入していけば、きっと世界と戦える大きな武器となるだろう。

世界的に販売が拡大している「ホールガーメント」横編み機

=おわり




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