物作りの未来像とは① 単品生産で広がる可能性

2017/07/15 04:55 更新


《連載 物作りの未来像とは 工場のIoT・自動化①》単品生産で広がるビジネスの可能性 国内回帰を後押し 短納期小ロット生産を効率化

 IoT(モノのインターネット)化、自動化が製造業で世界的な話題になっている。より効率良く大量生産する体制だけでなく、アディダスの自動化工場「スピードファクトリー」など、消費市場で短納期小ロット生産を後押しする仕組みへの投資が活発だ。繊維ファッション業界でも紡績、織布や縫製などの物作りでIoT活用への関心が高まっている。どんな将来像が描けるのだろうか。

(三冨裕騎)

 IoT化や「インダストリー4.0」への関心が高まっているのは、何も世界的なトレンドだからというだけではない。国内における人手不足や海外でのコスト増という課題に加え、増加する海外生産でも短納期対応を迫られるなか、国内での効率的な物作りが実現すれば、そのメリットは極めて大きい。

◆消費地で生産

 とりわけ生産の国内回帰の流れは数年前からアメリカ、欧州で特に強まっている。ドイツ機械工業連盟縫製・皮革機械協会(VDMA)のエルガー・ストラウブ専務理事は「消費地に生産をシフトし、リードタイム短縮・高品質・単品受注生産に対応するマイクロファクトリーの発展がメガトレンド」と語る。マイクロファクトリーとは、デザインシステムやインクジェットプリンターを活用し、設計段階から、プリント・裁断・縫製・ラベリングまでをコンパクトなスペースで行う工場モデルのことで、効率的で柔軟性のある生産が可能だ。

 こうしたマイクロファクトリー実現に向けた設備投資のスケールやスピード感で、海外企業の動きは目覚ましい。例えば、アマゾンによるオンデマンドのTシャツプリントサービス「Merch by Amazon」は、誰でもデザイナーとしてTシャツを簡単に販売することができる仕組みだ。このサービスに関してはアマゾンとイスラエルのインクジェットプリンターメーカー、コーニットが協力。アマゾンが独自にインクジェットプリント設備を有することで、ロスの少ないオンデマンド生産によるビジネスモデルを可能にしている。こうした仕組みはマイクロファクトリーの一部と捉えることもできるだろう。現在はプリントTシャツだけだが、今後設備が発展していけばオープンソース形式のファッション生産の大きなプラットフォームになるかもしれない。単品生産などの物作りが可能になることで、新しいビジネスの形も生まれることを示唆している。

◆生き残りの条件

 大企業が積極的に投資するなかで、アメリカのCAD・CAM(コンピューターによる設計・生産)メーカー、ガーバーテクノロジーの欧州、中東、アフリカ担当マーケティングディレクターであるイボンヌ・ハイネン氏は「デジタリゼーションの中でこそ、中小企業が変わらなくてはならない」と指摘する。企画やデザインにおけるデジタル化やPLM(製品ライフサイクル管理)ソフトの活用が進展し、中小企業もデジタル化に対応していかなくては、生産のサプライチェーンから取り残されてしまう危険性があるというわけだ。

 現在、繊維機械や縫製機器メーカーを中心に、IoT対応機器の開発は活発になっている。横編み機メーカーの島精機製作所も、28日付で社長に就任予定の島三博氏が「素材供給も含めた売る側と買う側の一体化が理想。今後1、2年でIoT化を急速に進めていく」と話している。次回から、そうした機械メーカーの取り組みを中心に紹介していく。

 日本の繊維ファッション産業は高品質な繊維製品の生産が可能な技術力があり、加えて9兆6000億円(15年)もの大きな衣料消費市場を国内に抱える。こうしたメリットを生かしていくためにも、製造業にとってのIoT化は企業規模にかかわらず、生き残りの必要条件となっている。

(続く)

インダストリー4.0
 蒸気機関など動力による産業革命、ベルトコンベアなどによる大量生産の実現、産業用ロボットや工作機械による生産の自動化。その次に来るものとして、インターネットに機械が接続されるIoT化で様々なデータを集積、集まったビッグデータを分析、活用することでより効率的な生産を自動で行い、多品種少量生産や単品生産を実現しようというもの。製造業が基盤であるドイツの国際競争力を維持するために2011年、ドイツ政府が中心となって提唱された。官民が協力して、自ら考える工場「スマートファクトリー」や、各工場が連携して一つの工場として動く仕組みの実現などを目指している。
その場でデザインから縫製まで行うマイクロファクトリーの実演は5月に開かれた縫製機器見本市、テックスプロセスでも注目された




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