ロエベ財団クラフト・プライズ24年のファイナリスト30人の作品展が、パリのパレ・ド・トーキョーで開かれている。同プライズのホームページでデジタルエキシビションが観覧できるが、会場に足を運べる距離にいるなら必見。ユニークなコンセプトで伝統と現代を技術と素材を組み合わせた芸術的表現を実物大で探求できる絶好の機会だ。入場は無料。
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現代におけるクラフト
アルチザン(職人)の発掘と支援を目的とした世界でもまれなプライズを発案したクリエイティブディレクターのジョナサン・アンダーソンは、「クラフトはロエベの神髄。ロエベは最も純粋な意味でのクラフトを追究し、それが私たちの現代性であり、常に関連性を持ち続ける」と話す。また特に若い層からの応募者が増えていると指摘し、この賞が「自分の趣味の収集とロエベとの間にある」と自身の思い入れにも触れた。
今年度は、素材の物理的な限界を探求する有機的で生物的な形状を特色とした作品がノミネートされた。その中でも「見たことのない形状」で関心を集めていたアンドレス・アンサさんの等身大のトーテムセラミックがグランプリを獲得。審査員から「時間や文化的背景を超越している」と評価され、陶器を現代の最も特徴的な影響を吸収する芸術と捉えるポストデジタルの美学を示した。
浅井さんジュエリーが特別賞
海外拠点を含め日本人6人のファイナリストは、漆、セラミック、ガラス、金属などのカテゴリーで、素材との対話や意表を突く制作プロセスを重ねた力作で注目を集めた。
芸術大学の非常勤講師をしている浅井美樹さんは、三つのリング「スティル・ライフ」でジュエリーのカテゴリーとして初めて特別賞を受賞した。複雑さと荘厳さという意外性のある組み合わせが、審査員から高く評価された。
「子供のころに見た花火のキラキラとか、美しい瞬間や自分の大切なことを形にしたいという矛盾な気持ちをマテリアルに落とし込み保存し自分の気持ちを満たしたかった。日常で消えていくもの、失われていくものをスティル・ライフとして、卵殻、貝殻、鉱物顔料の材料を壊しながら同時に作り上げていく工程が自分の矛盾した気持ちにしっくりしました」と作品への思いを振り返った。
(パリ=松井孝予通信員)