地方都市における商店街の衰退は、依然として大きな社会問題です。押し合いになるほど大勢の人でにぎわう雑踏。そんなかつての活況を取り戻すことはもはや難しいのかも知れません。また、長きにわたって「小売りの王様」と呼ばれた百貨店はその地位を失い、特に地方での閉店が相次いでいるのは周知の通り。規制緩和やライフスタイルの変化、人口減や少子高齢化など、かつて隆盛を誇った両者が凋落(ちょうらく)した要因は幾重にも重なります。今回紹介するのは、こうした厳しい境地にありながらも商店街で出店攻勢を続けるトミヤコーポレーション(岡山市)。
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光を放つ商店街
同社は高級腕時計や宝飾品、貴金属を扱う企業で、国内外の一流ブランドを中心に店舗展開しています。岡山から広島、神戸、福岡に進出し、23年11月には東京・銀座にも出店しました。同社が運営する店舗はブランドの専門ブティックを含めて現在19店を数えます。創業は岡山市中心部にある「表町商店街」。これは八つの商店街から成る総称で、同社はその中で地元百貨店が隣接する下之町商店街を拠点にしています。驚くべきは、200メートルほどの短い商店街の区間に全19店の内、11店を構えていること。ここの風景はよくある寂れた商店街とは明らかに違った様相を呈しています。しかし、一見すると過剰とも思える出店。その真意を聞きました。
「誰もが知る高級ブランドが地方から徐々に撤退し、路面店はおろか百貨店からも姿を消しつつあります。また、選択と集中の結果、多くのブランドが都会に直営のフラッグシップショップをつくるといった傾向があるように思います。しかし、街にそういったブランドがあるか否かは地域の『格』のような一面も併せており、時計や宝飾の部分だけは自分たちで守っていきたい。確かに無駄も生じ、コストも掛かりますが、それが地域に貢献できることであると思うし、巡り巡って自分たちにも返ってくることだと考えています」(古市聖一郎トミヤコーポレーション社長)。
求むべき姿勢
地方分権、一極集中の是正が訴えられる一方で、高級ブランドの多くが再び都市に集約されつつあるとすれば、地方にいる私たちにとっては損失となるのかもしれません。しかし、我々が何をすべきかを問い直す契機になるような気もしています。「活性化」の旗を振り、ユニークな施策によってそれぞれの再生を図ろうとする地域もありますが、一時的な話題性こそあれ、多くが根本的な課題解決や新しい有り様を示すには至っていません。
古市社長は、創業地を大事にしつつも、岡山で培った力で他県へも積極的に挑戦していきたいと話します。商店街での過剰とも見える出店も決して奇をてらった類いのものではありませんでした。
時代を受け入れ、地域に寄り添い、正直に商いを磨く。こうした本来あるべき姿勢の先にこそ、小売りの未来、商店街の再生、地方創生の答えがあるように感じます。奇抜なアイデアや派手な演出に活路を託さない。岡山のラグジュアリーは、そうした日々の努力によって今も守られています。