中小・零細企業が大半を占めるファッションビジネス業界では、予算、人材、時間の制約から、ECサイトやSNSなどの整備がままならない企業も多い。次々と押し寄せるデジタル化の波。しかし、そもそも何をすればいいのか? という基本的なところがぼんやりしているケースも見受けられる。デジタルの理解を進める上でも、専門家の提案や先進事例を中心に、実践的に取り組めるデジタルマーケティグの手法を紹介する。
(ファッションライター・ナイキミキ)
緩やかに日常を取り戻しつつあるが、コロナ禍で消費者を取り巻く社会環境やライフスタイルはすっかり変容した。約2年にわたる外出自粛やテレワークの推奨で、家で過ごすことは当たり前となり、家のなかでの時間を充実させる「巣ごもり消費」は新たなマーケットとなりつつある。それは今後も定着していくだろう。
感染対策のための非接触、非対面の接客手段は当初「難しい」とも考えられていたが、消費者はオンラインコンテンツ、キャッシュレスなどをやすやすと使いこなす。今ではオンライン接客を中心に、デジタルを活用した手法が業種を問わず存在感を増している。また、それが消費者との新たな接点を見いだすツールにもなっている。
ガラケー通販から
マキシム(神戸、林純司社長)が運営する「神戸レタス」は30代女性に向けたプチプラブランドを販売。丁寧にECショップを作り込み、SNSとの連携も功を奏し、売り上げを伸ばしている。
もとはガラケーでの通販が始まり。当時の人気SNS「モバゲータウン」を運営するDeNA(ディー・エヌ・エー)のECプラットフォーム「bidders(ビッダーズ)」に出店し、当時流行していた「egg」「小悪魔ageha」など、ティーンをターゲットにした無店舗でのアパレル販売を始めた。その後、楽天市場、ヤフーショッピングなどにも出店。販売チャネルが増えるとともに、売り上げも伸びていった。
「ガラケーでの販売は、モデルの〇〇ちゃんが着用しました、という口コミが売り上げを左右します。現在のインフルエンサービジネスの走りのようなイメージですね。そのため、当時からブログや口コミ記事など、ファンを造成するための施策を心がけています。集客やファンとのコミュニケーションなどは、早い段階からノウハウがありました」(林社長)。激戦を極めるプチプラゾーンにおいて、一歩抜きん出た攻めのEC戦略も、創成期から取り組んできた多くの知見や経験が生きている。ちなみに、90年代にウィンドウズ95が発売されると、一般家庭にも急速にインターネットが普及。楽天市場がオープンしたのは、97年のことだ。
ほとんどを内製化
神戸レタスの場合、ECの入り口になるウェブサイトは丁寧に作り込み、インスタライブや商品概要で素材やデザイン、サイズなどを事細かに説明する。スタッフがオンライン上で消費者とダイレクトにやりとりすることも多い。濃密なコミュニュケーションは消費者の納得感も高く、ECにありがちなクレームなどは「ほとんどない」。
ウェブやインスタグラムのビジュアルを構成するのは、神戸の街を背景にアイテムを落とし込んだファッションストーリーだ。さながらファッション誌のようなレベルの高さ。撮影は高い頻度で街中に出かける。社内にもスタジオを完備し、スタッフが商品愛を語り販売するライブコマースを始め、コーディネート提案やインスタグラマーとの協業なども手がける。そのほとんどを内製化しているのが特徴だ。
「様々な情報を瞬時に得ている近頃のユーザーは、非常に目が肥えていて、あらゆる点でハードルが高い。ウェブ上では視覚が全て。中途半端では見向きもされません」。しかし、コロナ禍になりマーケットの縮小が見られるようになる。そんな時に、起死回生のアイデアとして導入したのが「Who AI」(フーアイ)だ。コストはかさんだが、先行投資として捉え、決断したという。一体どのようなシステムなのか。
(繊研新聞本紙22年8月22日付)