「外国にルーツを持つ人が自らを誇りに思えるように」。3年前、その思いからグリフィス・マーロンさんと妻のグリフィス太田朗子(あきこ)さんは日本でブランド「キョウダイ」を立ち上げた。自身のルーツを愛し、ありのままの自分を大切にしてほしい思いを込める。
(小坂麻里子)
子らへの言葉契機
マーロンさんは、カリブ海の島国であるトリニダード・トバゴ共和国出身で、現代アーティスト。2人は日本のイベントで出会い、結婚した。現在は名古屋市に住んでいる。
ブランド立ち上げのきっかけは子供たちが周囲から言われた言葉だった。「髪や肌の色がどうして違うの」。日本で生まれ日本で育ったのに、初対面で外見の違いを指摘されてしまう。悪意のない言葉かもしれないが、それが息子たちの心の澱(おり)として残っていくのではないか。自身のルーツに誇りを持ってほしいとの思いが夫婦を突き動かした。
マーロンさんは、人と人とが顔を寄せ合うアートを制作。互いを分かり合おうとするデザインだった。言葉を発する口は描かなかった。
さらに、自身のアイデアを新たに表現するツールとして、世界中で着られているTシャツに着目。母国の年中行事トリニダード・カーニバルのコスチュームデザインを手掛けていたこともあり、ファッションを他のアートより身近なツールとして感じていたことも後押しした。マーロンさんがデザイン、朗子さんが写真を担当し、Tシャツブランド「キョウダイ」を立ち上げた。
マーロンさんのデザインは異なる物を組み合わせて新しい世界、価値観を生み出すのが特徴だ。
キョウダイのTシャツもダークな墨とポップな赤の組み合わせ、ハミングバードと菊の組み合わせなど、日本文化と異文化を融合させた。
特異な存在ではない
マーロンさんは日本を「集中できる環境がある。有松絞などの職人技や細部のこだわりは尊敬すべきものだ」と話す。キョウダイを始め3年経ち、「ブランドだけでなくアイデアそのものが、墨流しのように社会に波紋を広げ、小さくても大きな一滴となっていることを感じている」と振り返る。
星が丘テラス、ラシック、美術館などでの期間限定店や自社ECで販売する。Tシャツは税込み5500円から、客層は30~40代が中心。
朗子さんの撮る写真は自然体だ。「格好をつけたポーズをとるのではなく、肩の力を抜きリラックスして、ありのままの姿でいてもらうようにしている」のがこだわり。
プロではないモデルを使うことで「海外ルーツの人々は決して特異な存在ではなく、自分と変わらない人であること、〝キョウダイ〟であることを感じてもらえたら」と話す。
一過性ではなく、持続的に活動するのが今後の目標だ。アイテムの幅を広げており、シャツの販売も開始している。