私は大阪支社で記者をしております、小堀と申します。今回は、本日の新聞7、8面に掲載されている「イチ押し差別化素材」特集のことを皆さんにご紹介したいと思います。
この特集は繊研新聞の数ある特集のなかで、長寿企画の一つ。さかのぼると20年以上前から続いている企画で、特集タイトルからわかるように、その時々の“イチ押し”の素材を紹介するという内容です。
掲載している素材は、天然繊維や化合繊の素材メーカー、加工業者が開発した独自技術による素材、あるいは繊維商社が扱うオリジナル素材を幅広く載せています。
「商品価値を高めたい!」とお考えの方々には、新しい企画にぜひお役立ていただきたいと思っています。
服の価値を高める素材
突然ですが、皆さんは、服を買う時に気にするポイントは何ですか?
“デザイン”だという方もいれば、“着心地”だという方もいる。それが気に入れば、その価値と“価格”が見合っていると感じるかどうか。ざっくりと言えばこの3点ではないでしょうか。
このうち、デザイン、着心地のどちらにも大きく関わるのが素材です(※パターンや縫製、ニッティングも着心地を左右する重大要素です)。
メインで使う素材は、最終製品となる服の完成度、価値を高める。もちろん、原価も大きく左右する。素材の情報をたくさん知っておいて損はありません。
より快適で、ストレスフリー
今回の特集では11社の素材を紹介しています。内容は合繊や天然繊維の素材、加工技術など様々。従来の素材と比べて、身に着けた時に快適な、ストレスを感じにくい素材が多い傾向です。
私たちはコロナ禍を経験して、暮らしのあらゆる場面で不便を味わいました。だからこそ、心地よさや安心感、満足感を得られるモノやコトを求めようとする意識が強まったからなのかな、と思っています。
スキーウェアやアウトドアウェアの素材としてロングセラーの「ダーミザクス」という素材があります。防水かつ蒸れにくいという特徴がありますが、さらに高い防水性、透湿性、通気性を追求し、触り心地、着心地にも気を配りながら素材をアップデートしているようです。
ユニチカトレーディングの「Z-10(ゼットテン)NR」は、ポリエステル製のストレッチ素材ですが、特殊な繊維加工技術で天然繊維の素材のような風合いを実現しています。
染色加工が強みの岐センも、ナイロンを“改質”する「バゼロ」という加工で、ナイロンにはないナチュラルな風合いを表現しました。
興味深いのは、私が取材を担当した綿紡績主力のクラボウ。「もう一度、綿に振り向かせたい」と言います。去年は綿花の高騰があって、「企画の綿離れがあった」とのこと。天然繊維の改質技術による「綿100%なのに機能素材」という「ネイテック」で、綿の市場をもう一度大きく切り拓けるか、注目したいです。
日清紡テキスタイルも綿を主力とするメーカーで、快適な素材開発に磨きをかけています。通常なら組み合わせることが難しい伸縮性、通気性、防透性という機能を兼ね備えた「エアリーウェーブ」はユニフォームの顧客から好評なようです。
また、コロナ禍を経て、私たちは身の回りを清潔にしよう、あるいは清潔にしておいてほしいという意識が定着したのではないでしょうか。
清潔(S)、衛生(E)、快適(K)な機能を持つ繊維製品の証し「SEKマーク」を発行する繊維評価技術協議会によりますと、「抗ウイルス加工、抗菌防臭加工製品の需要は底堅い」と話していました。試験機関での機能性試験に対する関心も引き続き高いそうです。
サステイナブルは“前提”条件
環境低負荷な原料や製法を用いたサステイナブル(持続可能)素材であることは、前提条件となっています。今回の特集で紹介している11社は、基本的にすべて何らかのサステイナブルの要素があります。
多いのはリサイクル系。「マジックテープ」で知られるクラレファスニングは、リサイクルポリエステルを使用。
誰もが知る海外スポーツブランドのサッカーシューズやボールにも採用されている帝人コードレの人工皮革「コードレ」も基布の不織布は、大半にリサイクルポリエステルが使われています。
芯地や中わたの日本バイリーンもリサイクルポリエステルタイプを充実しています。
繊維商社の豊島は、ポリエステル、ナイロン、アクリルという“3大合繊”をリサイクルする仕組みを商社ならではのネットワークや知見を生かし、作り上げました。
糸や生地メーカーのカワボウ繊維は、“生分解性”をうたう素材が主力商品の一つ。生分解性は土中で微生物の働きによって水と二酸化炭素に分解されるという特性。同社では、生分解性を持つ植物由来のPLA(ポリ乳酸)繊維を複合したニットが好評のようです。
サステイナビリティーと言えば、環境保全の切り口が多いのですが「人権という切り口が目を引いた」というのはシキボウ。フェアトレードコットンを使った素材の採用が決まり始めたようです。「公正な取引きを通じ、労働者の人権を守るという考え方に対して共感してもらえた」とのことでした。
気になる素材はありましたか?皆さんのブランド、商品にとって最適な素材が見つかれば幸いです。
こぼり・しんじ 大阪支社編集部・記者。2007年入社、大阪支社でスポーツメーカー、小売業を担当。2012年に東京本社へ異動。翌年以降、川上分野を担当。副資材、合繊、商社、経済産業省を担当し、2020年に大阪支社へ。現在は紡績をメインに担当。滋賀県出身。