内また歩きとカワイイ(浅沼小優)

2013/08/08 15:34 更新


ファッショナブルで内また歩き

おしゃれと内また歩きは矛盾すると思っていたのですが、2000年代の半ば頃でしょうか、一見なかなかおしゃれなのに、内また歩きの女性がかなり目につくようになりました。しかもここ数年は、ひとだけでなく、ウィンドウのマネキンまでも内またポーズのものが増えたように思えます。

私なりに定義すれば、内またとは「内側のくるぶしよりもつま先がさらに内側にある状態」を指します。日本女性には内またのひとが多いという指摘はこれまでもありました。たとえば、2001年12月14日の朝日新聞には「日本人は内股?アフリカは外股?」という記事が掲載されています。和装からの影響を否定するつもりはありません。ただ、10年ぐらい前から見られる内また歩きのひとは、なんというか、自信をもって、確信的に内また歩きを選択しているように見えます。

ランウェイで内またが増加

ファッショナブルと内また歩きは矛盾しなくなったのか。グローバル・ファッション界ではどうなのか確かめたくて、2001年から2013年のシャネルとルイ・ヴィトンの秋冬コレクション写真をみなおしてみました。足もとが確認できたルック数に対する内またの割合をだしたところ、この13年間でアップダウンはあるものの、ルイ・ヴィトンは0%から10%に、シャネルは、2%から18%に増えていました。 (ご興味ある方は文末のグラフをご覧ください。) 

1990年代までに内またポーズがまったくなかった、というつもりはありません。でも、以前は外またでハの字歩きをしたあとに、ハの字をひっくり返してわざと内側に置きなおすといったポーズで、自然に内またで歩いていたわけではなかったように思います。

出版物にも内またポーズ

出版物もいくつか確認してみました。1990年代までに発行された辞典、ファッションスケッチやスタイリングブックなどで、足まで描かれたイラストを調べてみたところ、その99%がつま先を外むきに開いていました。ところがです、2008年出版の『世界の服飾デザイナー60人によるファッションイラスト・コレクション』をながめて驚きました。多くのデザイナーが内またポーズでスケッチを描いていたのです。

2004年のロッセラ・タラビーニ(アンナ・モリナーリ)やブルーノ・ピータースのスケッチ、2005年のバッソ&ブルックのものも、2007年にケイト&ローラ・ミュラヴィー(ロダルテ)やフィリップ・リムがかいたもの、2007年のジャンバティスタ・ヴァリによるスケッチも内またポーズです。数えてみたら13人いました。ここ十年で状況が変わってしまったのでしょうか。

ジャパンカルチャーへの注目?

勝手にこれを「内また現象」と名づけさせてもらうならば、どうして、この時期に国内外を問わず、同じような動きがみられたのでしょう。日本女性=内またとするのはかなり短絡的、という自覚はありますが、もしかしたら、この時期、世界のファッション界が日本に注目すべきできごとがあったのかもしれないと、2000年代の関連しそうなイベントをピックアップしてみました。

2000年、パリではジャパン・エキスポという欧州最大のジャパン・カルチャーイベントの開催が始まりました。2003年にはルイ・ヴィトンが村上隆とコラボレーションをしました。同じくルイ・ヴィトン関連になりますが、2007年に放映されたドキュメンタリー、『マークジェイコブス&ルイ・ヴィトン』では、草間彌生がどれほど彼のこころをつかんだのかがコミカルに描かれていました。

こうした国外での動きを追うようにして、日本では2005年、ガールズファッションの祭典と呼ばれる東京ガールズコレクションが誕生、アジア各国でたいへんな話題になりました。2006年、ツモリ・チサトがデザイン原画集『Kawaii』を出版しています。2007年には、NHKで東京カワイイ★TVの前身がスタート。番組は英語版も制作され、何カ国かに配信されるほどの人気でした。気に入ったものをなんでもカワイイと表現してしまう日本の女性たちの存在が、急激に世界の目に触れるようになったタイミングが2000年代半ばだったのでしょうか。

関節を内側にするとカワイイらしい

ところで、カワイイポーズの取り方、というのをご存知でしょうか?あるモデルさんが話していたのですが、なかなか具体的で感心しました。ポイントは関節にあって、①肩や腰、肘、ひざ、手首、足首など、関節を内側にひねる、②ひねった関節をすこし上にあげる、③首をかしげる、というもの。これらを適当に組み合わせるといわゆるカワイイポーズのできあがりです。男性でもなんだかカワイくなります。(周囲の評価は別ですが…。)

歩くときに脚を内側にひねるといわゆる内また歩きになるわけですが、内またのことを英語圏ではピジョントゥ(鳩の足)といったり、ダッキーウォーク(アヒルちゃん歩き)と呼んだりします。そういえばダッキーにはカワイイという意味もあります。内また歩きはもしかしたら、カワイイのシンボリックな形なのでは…? そのシンボリックな表現をとりいれることでジャパンカルチャーのエッセンスを、ファッション界は好んで取り入れたのかしら、と考えてしまいました。皆さんはどう思われますか。

確信的内また歩きがスタート?

まだ、ぼんやりとした仮説ですが、ガールズコレクションやテレビ番組に登場する彼女たちのしぐさ、あるいはジャパンカルチャーの代表のひとつとして紹介されるアニメのヒロインたちの立ち姿、それらがいろいろな場面で「世界化」されることによって、ファッショナブルな女性たちがある意味それを冷静に楽しみつつ、新しい歩き方のひとつとして確信的に内また歩きを選択したのが2000年代半ばだった、という可能性がうかびました。

理想的な立ち姿

もちろん、疑問もあります。さきほども少し書きましたが、グローバル・ファッション界ではこれまで長い間、コレクションのランウェイではハの字のような足で止まってポーズ、という形式が定着していました。日本も例外ではなく、一般的には内またのひとが多いとはいえ、少なくともファッション界ではつま先が外を向いている、つまり外また歩きが理想的な立ち姿や歩き方の基本とされてきたはずです。ウォーキング指南には「まず、かかとをつけて壁を背にまっすぐ立ってみましょう」とありますし、いわゆる「モデル立ち」と呼ばれる立ち方は、片方の足の土踏まずあたりにもう一方の足のかかとをつけるポーズです。これでは内またにはなりようがありません。

このつま先を外に向けるという基本ポーズは、エレガンスの総本山であったフランス宮廷における足の置き方の美学を踏襲したものだと思われます。ルイ14世はダンスの名手として知られていますが、彼の時代にバレエの基本的な5つの足のポジションが決まりました。どれもつま先を180度開いたもので、現在でも男女共に基本の足として採用されています。さすがに歩くときにつま先を180度開いたまま維持するのはむりですが、この外向きのポーズがいまなおエレガントな立ち方、歩き方のデフォルトとして君臨しています。例外は、主にスラブ系のダンスのときで、この場合は足を内またにします。

それなのに、現代のエレガンスの集大成ともいえるコレクションのランウェイで内また歩きがあっという間に広がったとすれば、いったいなぜなのでしょうか。

ジャパンカルチャーとの結びつきを離れてカワイイポーズを採用する意味

コレクションのポーズのカウントと、それと関連しそうなできごとを同時進行で調べていたのですが、じつはジャパンエキスポの入場者の増加割合が2008年をピークに下がっていることがわかったため(入場者数そのものは着実に上昇していますが)、コレクションのポーズもそれと連動して、その数年後にはトーンダウンするのではないかと、予測をたてていました。ところが、実際はいまも内またポーズの割合は維持されたままなのです。しかも、直近の2013年秋冬では二つのブランドともに10%を超えているのです。

こうなると、ジャパンカルチャーや日本女性への着目というより、デフォルトとは違った美学で歩くことそのものがファッション業界の中で新しい流れとしてあり、その流れに私たちがカワイイと考える内また歩きのトレンドが合流していったのかもしれません。

この歩き方を採用する動きがグローバル・ファッションの中でどのような意味をもっているのか、あるいはもたされているのか。次回も引き続きカワイイについて考えてみましょう。

資料: 2001年-2013年秋冬コレクションにおける内またポーズの割合

 

参考:

『ファッション辞典』 文化出版局 1999

『日英米ファッション用語イラスト事典』 文化出版局2007

『世界の服飾デザイナー60人によるファッションイラスト・コレクション』 レアード・ボレリ著 北山晴一監修 エムディエヌコーポレーション2008

“Fashion Sourcebooks The1950s” John Peacock 1997 Thames and Hudson Ltd., London




短期的なトレンドにすこし距離をおきながら、社会の関心がどこに向かっているのか考えてみるブログです。 あさぬま・こゆう クリエイティブ業界のトレンド予測情報を提供するWGSN Limited (本社英国ロンドン) 日本支局に在籍し、日本国内の契約企業に消費者動向を発信。社会デザイン学会、モード?ファッション研究会所属。消費論、欲望論などを研究する。

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